2003年8月6日 ブルネイ旅行記(その20)

昨日、ネネが初めてスパイダーソリティアの上級編で白星を挙げました。 初挑戦にして初白星の快挙です。 そして、今日もう一度挑戦してみたら、また勝ちました。 つまり2戦2勝です。 

ネネは、用心深い性格で、無謀なことには手を出さないタイプです。 スパイダーソリティアも、中級編なら何百回とやっていて、 「そろそろ上級編にも挑戦してみたら?」と何度も勧めてみたものの、 「まだ勝てないから」と決して手を出そうとしなかったのです。

うさぎが上級編をやっているときには、脇でよく見ていました。 思えば、そうやって習得していたんですねえ、勝ち方を。 ひとたび取り掛かったら、この勝率! わが娘ながら、あっぱれです。

同時に、うさぎは自画自賛!

うさぎってけっこうすごいかも??

って思っちゃった♪
だってそうでしょ? うさぎの指導できりんも先日初白星を挙げたし、 うさぎの背中を見て育った(?)ネネも初白星を挙げた。 それはとりもなおさず、うさぎのスパイダーソリティア・メソッドがそれだけ確立している 証拠なのではっ?!

もうこうなったら、「スパイダー・ソリティア必勝法」サイトを立ち上げ、 その分野でヤフー・サングラスを目指すっきゃないかもしれません。
それとも、スパイダーソリティア「うさぎ流」の家元になるっていうのもいいわね〜。

なんであれ、うさぎの門下生がもっともっと増えますように♪

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【 ブルネイ旅行記20 ジュルドンパーク 】

ジュルドンパークは、夜の遊園地である。
開園時間は夕方から深夜まで。本当に夜しか開いていない。

では、どうして夜しか開園しないのか。 べつに奇をてらっているわけではないらしい。 この熱帯の国で、昼間遊園地で何時間も遊ぼうものなら日射病になること請け合いだから、 夜だけ開園するのだときいた。

エンパイアからジュルドンパークまでは車でほんの7〜8分ほど。 辺りには何もないようなところに突然立派な並木道が現われ、 いくつかのアーチをくぐったその奥に、ジュルドンパークはあった。

うさぎたちはここに「エンパイア専用車」で凱旋した。 別名「シャトルバス」と呼んでも差し支えないが、 運転手はくだんの黒ビロードの帽子を頭に乗せ、金のブレードを施した制服姿。 車は黒塗りのワゴン車である。
運転手はうさぎたちを正門付近で下ろし、 「お迎えは何時がよろしいでしょう?」と尋ねた。
夕食を食べてから来たので、時はすでに8時すぎだ。 うさぎは時計を見ながら、「では10時にお願い」と言った。 「では、10時か‥それくらいにお迎えに上がります」と運転手は言った。

「10時か、それくらい」‥?

そのアバウトな言い方に、うさぎはちょっとひっかかりを覚えた。
――まあいいや、深く考えないことにしよう。 あまり時間がないので、早速入場することにした。

門を入ると、まず目の前に広がっていたのは、広い野っ原だった。 アスレチック遊具が点々と置いてあり、 頭にスカーフを巻いた伝統的な装い母親たちが、 真っ暗な公園で小さな子供たちを遊ばせていた。 普通なら子供を寝かしつけている時間に。

電動の乗り物が点在する遊園地らしい遊園地は、その奥だった。
うさぎたちは、とにかく目についたものから乗ってみることにした。 足こぎボート、空飛ぶダンボのような幼児向けの乗り物、ジェットコースター、 子供用ゴーカート。 辺りが暗いので、どこから入っていっていいのか分からない。 手許に見取り図もなかったので、文字通りの「暗中模索」である。 たまに見かける園内案内を見ながらうさぎたちはどこに何があるのかもよく分からずに 無駄に園内を歩きまわった。

どこへ行っても何に乗っても、ほとんど待ち時間がないのは楽で、 遊園地を貸しきったような、不思議な気分だった。
結局、待ち時間らしい待ち時間があったのは、 最後にネネときりんが乗った大人用のゴーカートだけ。 これもたかだか7人待ちだったけれど、 なにしろ一度にサーキットに入れるのは3台で、 しかもかなり長いサーキットを3周もするとあって、10分以上も待たされた。

二人がゴーカートから帰ってきた頃には、10時10分前になっていた。 ここから正門まで10分で帰らなくてはならない。 闇の中、ずんずんと奥の方まで来てしまっていたので、正門は遠い。 園はくの字型に折れ曲がっていて距離的には近いのだが、 それには園から出なければならない。

うさぎは「きっと別の場所に退場門があるはず」と思い、その場所を人に尋ね、 その方角に向かって歩き出した。 だけど、これが良くなかった。 あるはずの場所に出口はなく、結局フェンスに沿って今来た道を正門まで引き返すことに なった。

正門までの道は殊更に長く感じられた。 ムアッとする熱気の中、ダラダラ汗を流しつつ、みなは早足で歩いた。 約束の時間に遅れたら、エンパイアの車が帰ってしまうかもしれないと不安だったのだ。

そして果して、正門まで戻ると――。
迎えの車はいなかった。 時計を見ると、10時を5分ほど過ぎていた。

どうしよう、もしかしたら置いてきぼりにされたかも‥。

不安になった。

お迎えが来なかったら、一体どうやってエンパイアまで帰ればよいのだろう?
車ではすぐだったけれど、歩ける距離だろうか?
道はどう行けば――?

辺りを見回してみたけれど、タクシーの姿は見当たらない。
時おり車が前を通るけれど、みな通り過ぎてゆく。
5分、10分――。
闇を照らすライトの下、立派なキンキラキンの門の前に座り、不安な気分で車を待った。

と、目の前に一台の白いワゴン車が止まった。

ついに来たか!

皆が一斉に立ち上がると、車の窓から、気の良さそうな運転手が顔を出した。
「もしもーし! あんたらレジデンスホテルに泊まってる人?」

うさぎはがっかりして言った。
「いいえ、エンパイアよ」
向こうもがっかりして言った。
「ああそう、やっぱ違うとは思ったんだよな。 ちょっと訊くけど、4人連れの中国人を見かけなかったかい?」
うさぎがかぶりを振ると、彼は「そうかー、じゃあね〜!」と言って行ってしまった。 ‥行ってしまったけれど、また数分すると、目の前の道を通った。 どうやら駐車スペースがないため、この辺りの道を巡回して お客が出てくるのを待っているらしい。 さっきから白いワゴン車ならここで何度も見かけたけれど、 それもみなこの車だったのだろう。

エンパイアの車が迎えに来たのは、それから数分後のことだった。 うさぎたちの姿を見つけると、運転手はわざわざ車から降りて うさぎたちのために車のドアを開け、
「遅れて申し訳ございません。他のお客様をお送りしていたものですから」と詫びた。
うさぎは「いいのよ」と言った。

それは単なる社交辞令だった。 本当はちっともよくはなかった。 すごく不安だったのだから。
だけど車のシートに落ち着くと、改めてうさぎは考えた。
「でも確かに、彼は約束の時間に遅れてはいないんだわ」と。 「10時かっきりに」とは言わず、「10時かそのくらい」と言っていたのだから。

あのときはどうしてそんなことを言うのか分からなかったけれど、 きっと彼は最初から、うさぎたちが10時かっきりに帰ってくるだなんて、 当てにしていなかったのだ。 園に入ったが最後、時間のことなんてすっかり忘れてしまう ――遊園地とはそういうものだもの。 「10時に迎えに来て」と言っていたお客が 10時半になっても11時になっても園から出てこないなんてことも、 全く珍しいことではないのだろう。 レジデンスホテルの運転手のように、 きっと彼も、いつもこの道をなんどもグルグル迂回しつつ、 いつ出てくるとも知れぬお客の帰りをながら待っているのに違いない ――うさぎはそう思った。

つづく