2003年9月27日 時には冷やして温めて(その4)

その日、病院から帰ってきたうさぎには、もう一箇所行くところがありました。 接骨院です。 うさぎが首を痛めたと知った友達が、いきつけの接骨院を紹介してくれたのです。

接骨院というのは、うさぎが知る限りでは、お金のかかるイメージがありました。 でも最近は、病院とおなじように健康保険の効く接骨院があるのですって。 一回につき数百円で済むと友達が言うので、この機会に行ってみることにしました。

街中にあるその接骨院を訪れると、入り口扉の下方の嵌まった素通しガラスを通して、 靴がたくさん置いてあるのが見えました。
「うわー、また待たされるのかぁ‥」とウンザリしながらそれでも扉を開けると、
「ありっ??」 待合室にはだぁれもいませんでした。

この靴の数と待合室の様子のギャップは一体‥?

不思議に思っていると、「いらっしゃいませ〜!」と元気に声を合わせ、 施術室の中からどやどやと白衣姿が出てきました。

ど、どうしてお医者さまがこんなにたくさん‥!

と思いつつ施術室を覗くと、カーテンで細かくブースに仕切られたそう広くもない部屋に、 ごちゃごちゃと、たくさんの患者がいちどきに施術を受けているのが見えました。 どうやらここは、床面積から言うと小さな接骨院だけれど、 抱えるスタッフの数と、訪れる患者の数から言うと、大接骨院のようです。

うさぎはなんだか楽しくなりました。 子供の頃に訪れた実家のそばの接骨院はこんな風じゃなかった。 もっと静かに、たった一人しかいない先生と向き合って診察を受けたものです。 殺風景な施術室は、学校の保健室のよう。 最後に訪れたのは冬のさなかで、柔らかい日差しが窓から長く差し込んでいましたっけ。
でもここはどうでしょう。 見たことのない機械が所狭しとたくさん並び、 治療を施す側も、施される側も、狭いスペースに大勢ひしめいている。
「どこが痛みますか?」「腰です」といった話し声が、あっちからこっちから聞こえて、 ざわざわしています。

実をいうと、これまでうさぎはあんまりよく理解していなかったのだけれど、 "接骨院"と"病院"は全く違うものなのだそうです。 "院"は"院"でも、"接骨院"は、"病院"の範疇には入らないものなのだそう。
ここで患者に施されるのは、"治療"ではなく、"施術"。 それを施すのは、"医者"ではなくて、"柔道整復師"なのだそうです。 ‥そう言われても、どう違うのか、やっぱりよく分からないけれど。

ちなみに、この接骨院の方々は、いずれも元気なお若い方ばかり。 翻って、患者の方は見事にお年よりばかり。 すごいジェネレーションギャップです。 そしてうさぎも患者なの。但し、ここでは最年少。

さて、水色のカーテンで仕切られた狭いブースの中に案内されると、 唯一の中年先生は、うさぎの首を触り、こうおっしゃいました。
「背骨の第5関節か第6関節あたりが変形しているようです」
ああ、それでかもしれません、うさぎが最近よく首を痛めるのは。

診察らしきことはそれだけ。そのあと早くも施術に移りました。 温かくて、気持ちのよい施術。
まず肩に微電流を流し、次に指圧、最後に機械で首を引っ張って伸ばしました。

中でも幸せだったのは、指圧です。 どうして人間の手はこんなに温かいのでしょう。 まるで、お若い整復師さんの手の平からうさぎの体の中へ、 メッセージが流れ込んでくるみたい。

柔らかくなあれ、柔らかくなあれ、柔らかく、健やかになあれ

って。

あ、ベクトルだ!

と、うさぎは思いました。"健やか方面"へのベクトルです。 悪いところを完璧に治そうという気概は感じられない。 ただ、少しでも楽になるように、健やかになるようにと、体を導く優しいベクトル。 終着駅のないベクトルです。

◆◆◆

「2〜3日後にまたおいでください」 初診料込み750円を支払うと、そう言われました。
「わあ、また来てもいいの?!」ってうさぎは思いました。

嬉しい、嬉しい! 「またおいでください」って言われちゃった〜♪

接骨院を後にしたうさぎは、すっかり元気になっていました。
もしかしたら、接骨院に行かなくても、整形外科に行かなくても、 もともとそろそろ治る時期だったのかもしれません。
でも、そうではないかもしれません。
今日やったことは、全部よかったのです。 熱いお風呂に入ったことも、整形外科に行ったことも、接骨院に行ったことも。 だからきっと元気になれたのです。

とにかく、今のうさぎは元気でした。 首はまだちょっと痛かったけれど、確かに元気でした。
「そうだ、今夜はしゃぶしゃぶにしよう!」と思って豚しゃぶ肉を買いました。
「生野菜をいっぱい食べよう」と思って、自転車のカゴいっぱい、野菜も買いました。
「そうだ、ついでにチャアを迎えに行こう!」と思いついて、 2キロ離れたバレエのスタジオまで自転車を走らせました。

明日につづく