2004年1月23日 新春ツアーゲット大作戦 / バリ旅行記(その10) イルカたち

毎年1月といえば、旅行会社HISの新春目玉ツアー売り出し。 昨年は年内にブルネイ行きですでに冬の休暇を使い果たしてしまっていたため 参戦しませんでしたが、 一昨年はセブ・プランテーションベイ泊の破格値ツアーをゲット。 そして今年も、ボルネオ・ラサリアリゾート4泊5日3万9800円のツアーをゲットすべく、 ツアー売り出しの初日、電話営業開始時間である朝9時より、始動開始しました。

今回、旅行に行くのは、きりんとチャアのみ。 旅行の言い出しっぺはきりんでしたが、 激安ツアーが対象とする日程は学期内なので、 「学校を休んでまで旅行に行きたいとは思わない」というネネ、 バリ旅行記がまだ書きあがっていないうさぎは日本でお留守番です。 でも、9時かっきりに営業所に電話をかけるのは、勤め人のきりんでは無理。 なのでうさぎがきりんにかわって腕をまくりました。

まずは電話が繋がるかどうかが運命の分かれ道。
その日、朝9時ちょっと前に行きつけの支店に電話すると、 「営業時間内におかけなおしください」というテープの声が。 やっぱりまだ早かったかと思いつつも、もう一度かけなおすと、やった! 繋がりました! こんなにはやく繋がるとは思わなかった。 これはもらった〜っ!

早速2名分の予約を入れたい旨を電話の向こうのお姉さんに伝えると、 「オンライン予約システムが込み合っておりますので、 お取りできるかどうかはまだ分かりません。 取れましたら、のちほどこちらからおかけ直しいたします」とのこと。
「はいはい♪ ではよろしく〜♪」とうさぎは二つ返事で電話を切りました。 まあ、そうは言っても取れないことはないでしょう〜。 いくら先着200名限定とはいえ、初日の朝一なんだし♪

‥ところがこれが、取れなかった。
「朝一斉に全国から申し込みが入りますので、なにとぞご了承いただきたく‥」 なかなか言葉の丁寧なお姉さんであります。 「いかがでしょう。このキャンペーン期間が終わる今週末までキャンセル待ちを入れられては‥」
「そうしてください」一も二もなく、うさぎは言いました。

くすん‥、 せっかくきりんに「取れたわよ〜っ!」って大威張りで言おうと思っていたのに‥。 しかし恐るべし、HIS! 全国とはいえ、たった数分で200名の予約を取ってしまうとは! この日はほかにも、ロンドン6日間39800円とか、 そういう信じられないような価格のツアーが目白押し。 この中ではマイナー気味のボルネオが埋まるくらいなら、 それらもすべて瞬時に埋まったに違いありません。

その晩、この顛末をきりんに報告すると、彼は落胆もそこそこに、 次策を練り始めました。 題して、

「オランウータンがダメなら、サルならどうだ」作戦

一体何のことやら‥と思われるかもしれませんが、 実はボルネオのラサリアリゾートの裏手の森はオランウータンの保護区域で、 オランウータンを間近で見られる世界でも数少ない場所なのです。 で、ボルネオのツアーをきりんが申し込むことにしたのも、 動物好きのチャアにオランウータンを見せたかったから。 それがダメになったと知ると、きりんは猛烈な勢いでネット検索を掛け始め、 「ランカウイには、サルがたくさん棲んでいるんだそうな」 という情報をどこかからか探し出してきました。

そして、ラサリア行きのツアーが取れなくてガッカリしているチャアに、
「チャア、オランウータンはダメみたいだけど、サルでもいい?」と打診。
「もう、サルでも何でも、どっかに行かれればどこでもいいよ」とチャア。
「こっちはすごいよ〜、裏の森どころか、ホテルの庭先までくることもあるそうだよ」 と盛り上がるきりん。「同じ霊長類だし、いいよね♪」

そこで、急遽シェラトンランカウイ行きの検討が始まったというわけです。 ラサリア行きのツアーよりは1万円高かったけれど、それにしたって安い! 幸い、こちらは特に先着順というわけでもないようで、 ネットで確認したところ、まだ空きがあるみたい。

とはいえ、他の旅行会社のツアーもちょっとぐらい検討したって‥と、 うさぎは思うのだけれど、 きりんはすでになぜか、HISで行くと決めてしまっているみたい。

もっと言えば、オランウータンがダメなら、旅行はまた今度にしたら?‥とも うさぎは思うのだけれど、 きりんはもう、行くと決めたらどこかに行かなくては気がすまないみたい。
‥というより、 「正月から激安ツアーをゲットし損ねた」というゲンの悪さを このままにしておきたくないのかもしれない。 「激安ツアーをゲットした。ラッキー♪」という楽しい気分で終わるためなら、 サンキュッパがヨンキュッパになろうが、 オランウータンがただのサルに替わろうが、 そんな些末なことにはこだわらない彼なのかもしれません。

「でもさあ、それって、ひょっとして旅行会社の思うツボにハマってない? たぶんああいう先着順のツアーが取れる人っていうのは、 申し込む人の全体からすると、ほんの一握りなのよ。 200名という数を見ると、すごく多い気がするけれど、 全体のパイはこっちが考える以上に大きいのかもしれない。 その先着順に外れた人がたいていパパのように別のツアーに申し込んでくれるから、 旅行会社とすれば、あんな信じられない価格のツアーを出しても損はしないって 寸法なんじゃあないの?」とうさぎ。

「うーん確かに、それはあるかも」ときりん。 そういいつつも、この数日後には、さっさと仮予約を入れてしまいました。 まあいいや、せっかく盛り上がっているんだもの、 「サルなら日本にも棲んでいるんじゃ‥」の一言は言わないでおこう。

そして結局、ラサリアのキャンセル待ちが入ることはなく、 ランカウイ行きが決定となりました。

ちなみにキャンセル待ちの期限が明日には切れるという日、HISのお姉さんからは
「ラサリアのツアーが取れなかったときのために、 別のツアーをご検討いただければと思いまして。 おなじボルネオのネクサスご宿泊、ラサリアのツアーよりも1万円高くはなりますが、 マッサージとディナーつきです」というお電話が。 なるほど、ちゃんと先着順に漏れた人の受け皿も用意されていたというわけです。 コタキナバルにいかれるという点では同じだし、 ラサリアとネクサスではホテルのグレードにそれほど大きな違いがあるわけでもない。 価格が一万円アップしても、その分マッサージとディナーつきなら、 自分を納得させることもできる。 滞在中、ラサリアへ行ってオランウータンを見ることもできなくはない。 なかなか良い落としどころであります。 傍目から見ると、オランウータンがサルに変わるより、よっぽど分かりやすい次善の策かも?

でも、きりんがこのツアーを選択せず、ランカウイにしたというのも、 うさぎにはよーく分かる。 我が家の旅にとって大事なのは、"何か変わった経験をすること"ことではなく、 "何か毎日できる日課があること"なのです。 だから、"珍獣オランウータンを一度見る"ことより、 "普通のサルを何度も見る"ことが、我が家では優先されるのです。

そんなわけで、3月にきりんとチャアはランカウイへ。 日ごろから恋人同士のように仲の良い、父と娘の父子旅行であります。

留守番組のネネとうさぎは女同士、いつものように二人で長風呂に浸かって、 静かに人生でも語り合うことにしましょうかね。

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【 バリ旅行記10 イルカたち 】

21日からの続き

バリの日中は暑い。 比較的過ごしやすい乾季とはいえ、2キロほどの道のりを歩いて帰ってくると、 子供たちは早速「プール!」と言い出した。 午後3時とあって、そろそろ日の光も和らいできた頃だ。 肌を日に晒してもそう真っ黒に日焼けすることもなかろうと、 夜のバリダンス公演を見に行くまでの数時間、プールで遊ぶことにした。

うっそうとした緑といくつもの石像に見守られたアラムジワのプールは、 素敵なサンクチュアリだった。 デッキチェアの脇には、スタッフが用意してくれたお茶とケーキ。 東屋には竹でできた楽器が置いてある。 石像の持つつぼから流れる水に打たれてみたり、 楽器の鍵を叩いてみたり。 ケーキにぱくついたりお茶を飲んだりしながら過ごす午後は、 なんとも贅沢な気分だった。

しばらく水に浸かっていると、さすがに寒くなってきた。 そろそろ日が落ちかけて、日差しが弱まり、気温も下がってきたようだ。 そろそろバリ舞踊を見に行く支度もしなくてはならないので、 水から上がり、部屋に帰ることにした。

部屋に引き上げるうさぎたちとは入れ違いに、西洋人の姉妹がプールにやってきた。 ネネとチャアと同じくらいの年齢である。 「これからプールで遊ぶのでは寒くはないかな」というこちらの心配を他所に、 彼女たちは水の冷たさをものともせず、ついさっきまでのネネやチャア同様に遊び始めた。

それから1時間半ほど後のこと。 バリダンスを見に行こうと、レストランで車を待っていると、西洋人の夫妻が現れ、
「わたしらも宮殿へ行くから、車を頼むよ」とスタッフに英語で告げた。
「ではそこでお待ちください」とスタッフが返すと、
「ああ、でもちょっと待った。 その前にあのイルカたちをプールから引き上げなくてはね」

「ああ、なるほど」スタッフは笑った。 見れば、 すでに日の落ちた暗いプールでさっきの姉妹がまだ水しぶきを上げながらはしゃいでいる。 よく体が冷えないものだと感心するが、どうやら寒冷地育ちの西洋人と 温帯育ちの日本人とでは、寒さに対する耐性が違うらしい。

「おーい、イルカたち、いつまで泳いでるんだい? 早く出てこないと、網で捕まえるぞー!」 彼はプールに向かって声をかけた。 けれど、イルカたちは華やかな声で笑い、一言二言、英語で何か言ったっきり、 一向に泳ぐのを辞めようとはしなかった。 うさぎは思わず時計を見た。 もう6時半を回っている。7時半開演だから、そろそろ行かないと、良い場所が取れない。 でもあのイルカちゃんたちが水から上がって支度するのを待っていたら、 一体いつのことになるのやら‥。

ダンス公演の会場となる宮殿へ向かう車がやってきた。 西洋人夫妻とうさぎたちは車に乗り込んだ。
でも、イルカたちはまだ水の中。 おや、この夫婦は子供たちを水の中に残して行くことにしたのかな、とうさぎは思った。 あの彼女たちの様子では、 公演が終わって帰って来たらまだプールに浸かっていたなんていう展開もありそうだ。

「はじめまして。わたしたちはフランスから来ました。あなたがたは?」 車の中で、美しいブロンドの奥さんがうさぎに話し掛けてきた。 おや、フランス人?と、うさぎはちょっと意外に感じつつ、あいさつを返した。 「はじめまして。わたしたちは日本から来たんですよ」
ご主人が前の座席から身を乗り出すようにして言った。 「そうですか! 実はわたしはトヨタで働いているんですよ。 なので日本にも何度か仕事で行ったことがあります」
「へええ〜! では奥様の方は何を? 主婦業に専念しておられるのかしら?」
「わたしは美術の教師です。バリ絵画に興味があるんですよ」
「あら、わたしもです〜!」‥。 フランス人のご夫妻は話し好きで、よく話が弾んだ。

すっかりうちとけたところで、うさぎはさっきから気になっていたことを切り出した。
「お嬢様がたは結局ホテルに置いていらしたんですね」
すると、彼らは顔を見合わせ、きょとんとした。
「娘たち? わたしらの子供はみな国に置いてきましたよ」
「えっ‥? ではあのプールで遊んでいたイルカちゃんたちは‥」
二人はどっと笑った。 「ははは、あれはわたしたちの娘ではありません。ちょっとからかっていただけですよ!」

ああそうだったのか〜!
彼らがフランス人と聞いたとき、なんだか妙な気がしたのは、 イルカちゃんたちが英語で喋っていたからだ。 イルカちゃんたちはオージーか何かだろうと思っていたので、 彼らがフランス人だと聞いたとき、なんだか違和感を覚えたのだ。

西洋人が「東洋人は見分けがつかない」とよく言うが、 東洋人であるうさぎには、西洋人も見分けがつかない。 フランス人もオーストラリア人もいっしょくた。 彼らにしてみれば、それはちょうど、 日本人夫妻が、 「あれはお宅のお子さんでしょ?」と、 盛んに中国語を喋っている子供を指して言われたようなものだったに違いない。

つづく