5時から6時までの一時間は「ハッピーアワー」。プールサイドのバーで飲み物が半額になる。 ちょうど喉も乾いたので、カウンターでノンアルコールカクテルを頼んだ。
ところが。バーのマスターは非常に無愛想だった。
カウンターに腰かけた白人の客とは話をしていたが、うさぎが話し掛けても何も答えない。
「メニューを見せて」と言ったが、聞いていない。
やっとメニューを手に入れて、注文を出したが、聞いていない。
それでもしつこく何度も言い、マスターが頷いたのを確認して随分待ったが、出てこない。
引きつった顔に、無理やり笑みを作り、努めて明るい声で、
「ねえねえ、わたしの注文、忘れてなーい?」とカウンターまで言いにいくと、
ボーイたちが顔を見合わせて慌てたそぶりになり、そのうちの一人がうさぎのところまでやってきた。
その様子を見て、うさぎは安心した。 マスターに邪険にされるのは、自分の態度がどこか悪いからではないかと、 ちょっと思いはじめていたのだ。 けれど、ボーイさんたちの慌てぶりを見ていたら、 きっとマスターの無愛想が客を怒らせることがここではよくあるのではないか、と思えてきた。 そして、マスターと客の反目のツケは、いつもボーイたちに回ってくるのだろう。
とにかく、多大な労力を掛け、神経をすり減らして、やっとうさぎはノンアルコールカクテルを一杯、手に入れた。 その名は
"banana dreamer"(バナナ・ドリーマー)。
それはとても美味しく、しかも 4.5フィジードルの半額と言ったら 150円もしない。 手に入れる労力を考え合わせても、また明日のこの時間に飲みに来ようと思ってしまった。