言霊(ことだま)

	「つまらないものですが」
	日本は謙遜の国。
	贈り物はそう言って手渡すのが慣わしです。
	
	「あばら家ですが」
	これも謙遜の常套句。お客を家に招きいれる時に使います。
	
	「うちのクルマ、ひどいでしょう?
	もうボロくてやんなっちゃう」
	これは謙遜というより愚痴ですね。
	「この程度で満足していると思われたくない」という意地も少々。
	
	「うちの犬、ほんっとにバカなの。バカでバカで困っちゃう」
	けなすことが愛情表現の場合も。
	
いずれにせよ、自分の持ち物をこき下ろすセリフをよく聞きます。 話し手は決して本気でそう思っているわけではなく、 単なる表現スタイルに過ぎないのですが。
でもちょっと待って。 日本は言霊(ことだま)の国。 言葉には霊力があって、口に出した言葉はしばしば現実となります。 つまり、「あばら家ですが」なんて言うと、 わが家が本当にそうなっちゃうかも?!
そんなことあるわけがない? ――いえいえどうして、これがあるのです。 実際どうかはともかくとして、「そう思えてくる」ことが。 自分の言葉で自分に暗示をかけてしまうのですね。
	「このお茶、とても気に入っているの」
	時にはこんなセリフはいかがでしょう。
	「粗茶ですが」の代わりに。
	「気に入っている」と口に出して確認することで、自分の身の回りの品々がますます素敵に思えてきます。
	
	初稿:2008年1月31日