2003年3月30日 遠足の思ひ出

今日はうさぎが昔書いた作文を紹介します。小学校2年生のときの、遠足の作文です。

こないだ、どうぶつえんに、いきました。おもしろかったです。
なにがおもしろかったかってゆうと、とらがおもしろくて、おもしろかったです。
なんでとらがおもしろかったかってゆうと、とらがおもしろかったから、 とらがおもしろかったです。

抜粋ではなく、これで全文。
いや〜、遠足の楽しさが伝わってくる作文ですね〜。 「とらがおもしろかった」と4回も書いて、その面白さを力説していますね。 なかなかの秀作です。(?)

この作文を見つけたのは、結婚のため引越しをすることになって、 自分の部屋を整理していたとき。もう、爆笑してしまいました。 よっぽど他に書くことがなかったんだろうなあと思ったら、可笑しくて可笑しくて‥。
でも、ひとしきり笑ったあと、 「おもしろかった」という言葉を7回も書いた裏はなんだろうと ふと考えたら、その遠足の光景が忽然と頭によみがえってきました。

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動物の柵の脇を、担任の先生を先頭に、2列縦隊でぞろぞろ歩く子どもたち。 隣りの子と手を繋いで、1組から4組まで。 立ち止まってはいけない。早足でもいけない。 自分の位置を守り、速すぎず、遅れず、みんな同じ速度で、ゆっくりと歩く。

でも小さなうさぎはそういうのが苦手。 面白そうなものを見つけたら、足が勝手にそっちの方向に歩いていってしまう。 ときおり意識がフッと現実世界から離れて、何か別のことで頭がいっぱいになってしまう。 そして、考える速度で歩いてしまう。 隣りの子と繋いでいたはずの手もいつの間にか離れ、 動物をじっくり観察するためのゆっくり歩きから外れて前へ前へ。

「列に戻りなさいっ!」という先生の声で、自分が列を乱していることに初めて気づく。 はっ、しまったと思い、自分の場所に戻る。
だけどしばらくすると、また前へ前へ。そしてまた叱られる。
何度も何度も叱られて、何とかちゃんと自分の場所にいようと努力するのだけれど、 ふと気づくと、先生を追い越そうとしている自分がいる。

だから、ホントは動物なんて、全然見ていなかった。
みんなと同じ速度で歩こうと努力するのに忙しくて。 その割にはぜんぜんそれができなくて。
「どうして自分だけが」という疑問を胸にいだきつつ、 自分の意識を飛ばさずにいることに一生懸命だった、小さなうさぎ。

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30年以上経った今、作文に書いた虎のことは、全然覚えていません。
他の動物のことも、なにひとつ。
ただ、自分が列を乱しては叱られたことだけは、いまだに鮮明に覚えています。
となりの男の子の困ったような顔、怒った先生の怖い顔、 列の左右にあった柵の間の狭かったこと、自分の場所に戻るときのきまり悪さ、 「どうして自分は他の子と同じにできないんだろう」という葛藤――。

当時はそうした葛藤を表現するすべを持っていませんでした。 だから遠足の作文には書くことがなくて困ったのでしょう。 「虎が面白かった」と何度も書いて 作文用紙のマス目を埋めることしかできませんでした。
いつの頃からかうさぎは"言葉"という翼を手に入れ、だいぶ自由になりました。 上にご紹介したのは、その翼を持っていなかった頃の作文です。