2003年9月29日 時には冷やして温めて(その5)

整形外科と接骨院を巡ってきたその日、 全員が夕食を終えると、うさぎは食事の後片付けもそこそこに、ベッドに横たわりました。

月曜日は、みんなバラバラにバレエのレッスンから帰ってくるから大変です。 それぞれが時間差で帰ってきて、その度に食事の支度をしなければなりません。 最後のきりんが帰って食事を終えたところでやっと、うさぎはお役ゴメンになるのです。

本当はまだやらなくちゃならない家事が山積みだけれど、今日はもう動きたくない。 やらなくちゃならないことは全部明日。 今日はこのまま眠ってしまおう――。

うさぎは横になって目を瞑ったまま、あれこれ考えました。

ああ疲れた。忙しい一日だった。
でもいい一日だった。

寝違えたときって、最初は冷やすほうがいいのかあ‥。
温めたほうが良くなるような気がしていたのに。
そう言えば、目が痛むときは、冷やしたらすっきりするような気がするけれど、
温かいティーバックを載せると疲れが取れるっていうもんなあ‥。

冷やしたり温めたり。
体って面白いなあ。

あれ? 待てよ。
冷やした方がいいときと、温めた方がいいときがあるのは、 体だけじゃないかもしれない。
精神もそうなんじゃないかなあ。
休んだ方がいいときと、エンジンをかけた方がいいときと。
"心"にも、その時の状態によって、
冷やした方がいい時と、温めた方がいいときがあるかもしれない‥。

うとうとしながら、とめどもなくいろんなことを考えました。
考えているうちに、だんだん考えがまとまってきて、 うさぎはそれを書きとめておきたくなりました。 今日学んだこと、今日楽しかったこと。今考えたこと、今の気持ち‥。 明日になったら忘れてしまうかもしれないいろんなことを。

そして、そう思った自分に、うさぎはちょっとびっくりしました。
なぜって、ここしばらくそういう気持ちになったことはなかったからです。

◆◆◆

実をいうと、ここのところうさぎは 日記を書くのがおっくうでおっくうで仕方がありませんでした。 何を書いたらいいのか分からない。どう書いたらいいのか分からない。 書きたい気持ちに全然ならない。 書きたいことが何もありませんでした。

でも、ホームページは更新しなくちゃならない。
日記サイトなんだから、毎日。
‥だから書かなくちゃ‥!

そういうプレッシャーが重くのしかかってきました。 うさぎの日記を毎日読みに来てくれる人は約100人。 大事な大事なうさぎの読者。 この100人の読者を、うさぎはがっかりさせたくなかったのです。 がっかりさせて、失いたくなかった。 見放されたくなかったのです。

「書く」ことは、うさぎの喜びだったはずでした。 「いつものきりんとうさぎ」を立ち上げたのも、 毎日毎日浮かんでは消える思いが惜しくて、文章にして残しておきたかったからでした。 だから、うまく書けずにイライラすることはあっても、 書きたいものはいつもありました。

でも今は。
何を書いたらいいのか、全然分かりませんでした。 この平凡な毎日の中に、どんな面白いことがあるでしょう。 どんな面白い話のネタが転がっているというのでしょう。 うさぎにはさっぱり分かりませんでした。

何か書かなくちゃ、と思ってパソコンの前に座っても、何も浮かばない。 やっと何か書いても、ちっとも面白いと思えない。 面白くないから、読み返すのもイヤ。

――でも何か書かなくっちゃ‥!

9月のはじめは忙しくて、文章を書く時間があまり取れませんでした。 それでもうさぎは、ヒマを見つけてはパソコンの前に座り、 ちょっと書いてはやめ、またちょっと書いて‥を繰り返しました。 その日が終わっても何も書けず、 朝までずっとパソコンの前で書いたり消したりを繰り返していることもありました。

ああ、もう疲れた‥。

精も根も尽き果てた頃、首が痛いのに気づきました。
うさぎは横になって休みながら、

首が痛むから書けないのかもしれない。

と思いました。 そう考えるとちょっと救われました。 でも、

書けないから首が痛むのかも‥。

とも思いました。 だって、ヒマさえあればパソコンの前に座っているんですもの、 ちょっと前に痛めた首が痛むのも当然です。

首が痛むから書けないのか、
書けないから首が痛むのか――。

それは分かりませんでしたが、とにかく、体も心も疲れ果て、 今はもう休むしかないと思いました。

でも、休みつつも不安でした。

首はそのうち痛まなくなる。
でも、文章は。いつか書けるようになるのだろうか――?

そう思うと怖くて不安で、仕方がありませんでした。 だから、首の痛みが去るのを望む一方で、 首だけが良くなり、書けない状態だけが変わらなかったらどうしよう、と思いました。 「首が良くなれば書ける」と信じるほかはありませんでしたが、 そう信じ切れなくて、不安でした。

ただ、「とにかく休まなくっちゃ!」という予感だけはしました。 パソコンの前にいくら座っていても、書けないものは書けない。 だから休むことにしたのです。

つづく