2003年10月3日 ネネの携帯物語

先日ネネが、「ケータイを解約しようと思うんだけど」と言い出しました。
「へええ、どうして?」と尋ねると、
「だって、お金がかかりすぎるんだもん」とネネ。

ネネのお小遣いは月に2,500円。それに"ケータイ助成金"の1,000円を加えて3,500円。 その3,500円のうち、2,700円余りが、携帯電話の使用料として出て行きます。 残りはたった800円弱。 ケータイ以外のものに使えるお金は、 小学校のときに貰っていた1,000円のお小遣いより少額です。 中学生ともなれば、友達との付き合いもあって、プリクラを撮ったり、 誕生日のプレゼントを贈りあったり。 それでこの額では厳しいだろうな、とはうさぎにもすぐ察しがつきます。

「でも、お金ならお小遣い以外にもあるでしょ、お年玉とか誕生日のお祝い金とか」とうさぎが言うと、
「うん、ある。だから足りなくはないんだけど、なんていうか、 ケータイにばかりにお金がかかりすぎてるような気がして。 だって、ケータイ一つやめれば、プリクラが何回撮れるか考えたらさぁ」
「ははあ、お金のあるなしじゃあなく、バカバカしくなったのね、使用料の高額さが」とうさぎ。
「うんまあ、そういうことかな」

ネネがケータイを持ちたいと言い出したのは、昨年の6月。
「auの学割だと通話料込みで2,000円弱。使用料は全額自分で払うから、 本体だけ買ってほしい」と彼女は言ったのです。
うさぎは、我が家に一つくらいケータイがあってもいいかな、と思ったのと、 夜遅いバレエの帰りにも、ケータイがあればちょっと安心かな、と思ったのとで、 ネネに1,000円の"ケータイ助成金"を出すことにしました。 いくらなんでも2,500円のお小遣いで2,000円の使用料を支払うのは 無理だと思ったこともあって。

実際に契約してみると、2,000円弱だったはずの使用料は、 なんちゃらメールオプションだの、消費税だかなんだかが入って2,700円にもなりました。 でもまあ、使用料を支払うネネが納得しているのなら、 それはうさぎがどうこう言うような問題ではありません。 郵便受けにコンビニ振込みの請求書を見つけたら、ネネの机の上に置いておくだけ。 使用料がいくらになろうが、うさぎには知ったこっちゃありません。

契約して最初の請求書が届いたときには、ネネが青くなって駆けてきましたっけ。
「どうして? どうして?? 6500円も請求されてるー!!」と言って。
「ママにケータイのことを訊かないでよ。電話の受け方すら知らないんだから」 とうさぎは答えました。「‥何か変わったことはやらなかった?」
「うーん、待ちうけ画面をダウンロードしたことはあったけど‥」とネネは答えました。 「でも"無料"って書いてあったんだよ、それは」
隣りで話を聞いていたきりんが言いました。 「待ちうけ画面のダウンロードは無料だったかもしれないけれど、 ダウンロードサイトをずっと見てたでしょ。サイトを見るにも通信費はかかるんだよ」
「ああ、なるほどねー。ママもネットに繋いでばかりいたら、 電話料金が1万円近くにもなっちゃったことがあったわ。 まあ、お互い気をつけましょう」とうさぎ。 ちょっとかわいそうだと思ったけれど、"待ちうけ画面助成金"は出しませんでした。

最初の失敗で懲りたのか、 その後ネネは基本料金に含まれている分以上の通信をせず、請求金額は一定となりました。

それでも、3,500円の中から2,700円の出費は痛い。 毎月巡ってくる、友達の誰かしらの誕生日にも、プレゼントを買うお金がありません。 それでネネは、誰かの誕生日の度に、 家にある材料を使ってクッキーやマドレーヌを焼いては、 ありあわせの箱や袋にリボンやシールで装飾を施し、 可愛いプレゼントに仕立てて渡しました。たとえそれが、定期試験の前日であっても。

ケータイを持つようになって半年、お正月がやってきました。 大晦日の晩、皆で神社までの夜道を歩きながら、ネネはケータイの画面に見入っていました。 そして、新年の到来を告げる花火が夜空に上がったと見るや、エンターキーをプッシュ! 20数名の友達に向けて、一斉に

「あけましておめでとう! 今年もよろしく!」

というメールを発信しました。

その返信は、神社に着いて参拝を済ませた頃に続々と返ってきました。

「やっぱりまだ起きていたんだね! わたしも起きていたよ、今年もよろしく!」
「ホントに新年ジャストにメールくれるんだもん、びっくりしたよ」
「ネネちゃんからのメールが、誰よりも、今年一番早かったよ」

「やった〜! やっぱりあたしのが一番早かったんだ〜!」 神社からの帰り道、ネネはずっとニコニコ顔でした。

春になり、ネネは二年生になりました。 進級するときクラス換えがあって、 今度のクラスで仲良しになった子は、ケータイを持っていませんでした。 まだまだケータイを持っていない子も、ネネの中学では4割くらいいるのです。 それでネネも、ケータイがなくてもいいかな?と思い始めたのかもしれません。

恐ろしいチェーンメールが来て、怖い思いをしたり、 「オマエのこと好きなヤツがいるんだよ。知ってる?」というメールが男の子から来たり。 ケータイは、現代の女子中学生らしい様々なエピソードを運んできました。

うさぎは、細くて白い指で銀色のケータイを扱うネネのしぐさが好き。 外にいるネネから電話がかかってくると、 シニヨンに結った頭をちょっと傾げてケータイを耳にあてているネネの姿を想像します。

でも、それももうおしまい。 うさぎは、当人を差し置いて、今ちょっぴり感傷的になっています。

とはいえ、ほんの数年もしたら、ネネがまたケータイを契約する日も来るかもしれない。 中学生のネネにはまだケータイは贅沢品だけれど、 高校生になって、バイトでも始めて、もっと大きな経済を扱うようになったら、 その時は分相応になっているかもしれません。

小学生のとき、付録がほしくて毎月買っていた漫画雑誌を、ネネは途中で辞めました。 1、2年生のときは、発売日に走って買いに行ったものだったのに、 3年生の途中で、「1,000円のお小遣いのうち、半分近くがこれに消えるのは勿体ない」 と言って辞めたのです。 そのクセ、好きな男の子には700円もするバレンタインチョコを買って渡す太っ腹。

手帳を探していたときは、300円、500円が高すぎると言って、 店を何軒も渡り歩いたものです。 なのに、イメージにピッタリの素敵な手帳を見つけたら、 1,500円を「もっとすると思ったのに、これは安い! ラッキー!」 と言い切って買ったネネ。 元値は4,000円もしていた贅沢な手帳でした。

うさぎはそんなネネが好き。 自分の中でいつも優先順位が的確につけられるこんな子に、一体誰が育てたのでしょう。

‥って、モッチロン、うさぎに決まっていますとも!