2003年10月24日 新聞のディスカウント(後編)

新聞をやめてうさぎがまずやったことといえば、 それは、パソコンのホームページを ヤフーニュース に設定することでした。 新聞をとらない以上、意識しなくとも自然にニュースが目に入る環境をつくらねば、 と思ったのです。

ヤフーニュースと新聞との最も大きな違いは、ニュースの"重み付け"にあります。 新聞は、重要な記事は大きな見出しで一面に、 そうでないものほど見出しは小さく後ろの方へ、という重み付けがなされています。 ところがヤフーニュースは、常に新しいものがトップにくる。 それ以外の観点では、戦争勃発も、芸能人のゴシップも同列です。 その「情報の重み付けは自分でせい」という実にネット文化的な考え方は、 けっこううさぎの気に入りました。

でもちょっと困ったことがある。「試験のヤマ賭け」です。 ネネの社会の定期試験には時事問題が出るのですが、 ヤフーニュースでは 「世間ではどんなニュースが重要視されているのか」が分からないので、 ヤマが賭けにくいのです。 新聞を取らなくなって一番困ったのは、これでした。

ところで、ある日曜日のこと。 玄関のチャイムがなったので、インターフォンに出てみると、 案の定、新聞の勧誘でした。 "案の定"というのは、日曜日に我が家のチャイムが鳴ったら、 それはまず8割方が新聞の勧誘だからです。 ちなみに、あとの2割はほとんど宗教がらみの署名集めですね。

「新聞はとらないことにしておりますので」と断わると、
「やっぱりそうですかー」という返答。 どうやら相手は、これまで利用していた販売店のようです。 新聞をやめてから一月たったので、 「そろそろ気が変わったかもしれない」と思ってやってきたのでしょう。

それから更に一月を経たやはり日曜日のこと、またチャイムが鳴りました。
「新聞はとらないことにしておりますので」と同じ返答を繰り返すと、
「‥あのー、お安くしますが、それでもダメでしょうか」とのこと。
「?!」 うさぎは思わずインターフォンに向かって身をのりだしました。 再販制度に守られているはずの新聞が、「安くなる」?!

どのくらいディスカウントするのかしら?
どうやってディスカウントするのかしら〜っ??

どのみち新聞はもうとらないと決めていたうさぎでしたが、 その言葉はものすごくうさぎの好奇心をそそりました。
「安く‥って、どれくらい?」と恐る恐る尋ねると、
「2000円くらい‥ですかね」とインターフォンの向こう側から返答がかえってきました。

2000円! つまり半額になるってこと?!
‥でもどうやって?!

実は、新聞の半額セールに出会ったのは、これが最初ではありません。 2〜3年ほど前、新規に参入してきた別の販売所が、 「5年契約なら半額」を謳ってやってきたことがあるのです。 詳しく尋ねてみると、

「最初の2年半は、普通に集金させていただきます。
そのあと2年半は、集金にお伺いいたしません」

というものでした。
「これどう思う?」とうさぎはきりんに打診したものです。 きりんはしばらく考えてから、 「確かに魅力的だけど、実際はどうなのか、ちょっと分からない気はするね。 あとの2年半、本当に集金にこないのか、本当に新聞は届くのか、 そのうち販売所が潰れるんじゃないかとか」と言いました。 うさぎもなるほど、と思い、面倒くささも手伝って、 我が家はその「半額セール」を見送ったというわけです。

今回のディスカウントが興味をひいたのは、それが、 海のものとも山のものともつかない見知らぬ販売店ではなく、 これまで15年も付き合ってきた馴染みの業者であったからです。

「ちょっと待ってて。いま主人と相談するから」うさぎはそう言って、 昼寝していたきりんを叩き起こしました。

「ねえねえ、いつもの新聞販売店が2000円引きにするっていうんだけど」
きりんはその言葉に一発で飛び起き、上着をひっかけてそそくさと玄関に出ていきました。 我が家では業者との駆け引きはきりんの仕事です。 うさぎでは、女だと思って甘くみられる可能性がある。 その点、男のきりんなら多少その辺が安心で、 その上、きりんは値切りの名手なのです。 うさぎは、きりんほど上品に、且つ厳しく、モノを値切る人を見たことがありません。 ニコニコと穏やかに微笑みつつ、 まるで当たり前のことのように、相手に厳しい要求をつきつける。

さあて、きりんが玄関にでていくと、 うさぎはもう、そのやり取りが気になって気になって仕方がありませんでした。 でも、うさぎはきりんの駆け引きがいつも怖くて見ていられない。 だから、家の奥に引っ込んで、炊事で気を紛らわせながら待っていました。

でもしばらくしてきりんが帰ってくると、早速 「どうだった?!」と飛びつきました。 きりんはビール券の束をヒラヒラさせながら、「こういうことだったよ」と言いました。 「3ヶ月の契約で、6000円分のビール券の前渡し」

「はあああ??」うさぎは騙されたような気分になりました。 「ビール券なんて! ビールなんて全然飲まないのに〜〜〜!」
「金券ショップに持っていけば、1枚400円にはなるらしいよ。 それが15枚あるから、6000円になるっていう勘定だよ」
「ああそう、それで集金は普通にくる、と」
「そう。今回は朝刊だけにしたから、3500円くらいかな」

!!

「でかしたわ!」とうさぎは叫びました。 さすが、うちの人のやることには抜かりがない。 一月1500円で新聞代をカバーするとは。 いままで4000円と3500円ではさして変わりがないと思って夕刊も取っていたけれど、 2000円と1500円ではえらい違い。 割引が率ではなく固定額であると見るやいなや、こういう選択肢を思いつくという機転には、 もう惚れ直してしまいそう♪♪♪

けっきょく、ビール券は一枚406円で売れ、うさぎは大金6090円を手にしました。 最近、

お金は特化した情報に振り向け、
"世間並の情報"は少ない金額でカバーしよう

というビジョンが見えてきたうさぎ。 "世間並の情報"に一月4000円はいくらなんでも高すぎると思うけれど、 1500円くらいなら新聞がある生活も悪くはないかなー?、なんて。

‥でも放っておけば、3ヶ月が過ぎても新聞は配達されるに違いない。 そして当然のように集金にもやってくるのよ。 そしたら結局、元の木阿弥。

やっぱりうまいハナシには裏があるのね。 3ヶ月経ったら、またやめることにしよう。

‥で、またビール券を6000円分もらう?
うーん、それもなあ‥。

今回我が家にやってきた勧誘員さんは、本人いわく、 本社から直接派遣された人なのだそうで、
「この割引の一件は、くれぐれも販売店にはご内密に」とダメ押しして帰ったそうです。 「もしビール券を何枚もらったか、と尋ねられたら、"4枚"と答えておいてください。 販売店付きの勧誘員では到底出せない"特別な"ご優遇ですのでね」ですと。

うーむむむ‥。本当だか嘘だかは分からないけれど、 うさぎはこういった裏取引が好きではありません。 正規のディスカウント=バーゲンセールは大好きだけど、後ろ暗い二重価格は嫌い。 それが消費者うさぎのささやかな仁義です。 "ハナシのタネ"に一度くらいこういうことがあってもいいとは思うけれど、 3ヶ月に一度こういう駆け引きをするのはまっぴらゴメン。 こんど新聞をやめたら、こういう話があっても乗らないことにしようと思いました。

どだい、モノが何でも安くなっているこのデフレのご時世にあって、 新聞だけが再販制度の上にあぐらをかき、 「昔の値段で出ています」というところに無理があるのです。 努力がぜーんぜん見えない。

半額とは言わない。せめて1000円の正規値下げを断行してみろよ。
そしたらその心意気に免じて、また長期購読することも考えてやるからよッ。

‥というところでしょうか。

おわり