2004年9月10日 世界の電源事情(その2) なぜ中国のコンセントは多様なのか

今まで行った国々のコンセントの形状について調べるうちに気づいたのは、 コンセントの形状が複数混在している地域の多さでした。 日本のように一種類に統一されている地域のほうが少数派だったのです。

世界には細かく分けると10数種類のコンセントタイプがあり、 互換性のあるものを一まとめにして考えても、7〜8種類になります *1。 国によって様々なコンセントの形状があるというのは分かるとしても、 一つの国の中でも様々な形状があるというのは、 Aタイプ以外は滅多に見ない日本からすると、腑に落ちない。 電気屋さんで買ってきた電化製品のプラグがコンセントに合わないなんてことが 日常茶飯に起こるところを想像すると、なんて不便なのだろうと思います。

でも実際に「地球の歩き方」を見ると、 一つの国で3種類4種類の変換プラグが必要とされるのは当たり前、 中国に到っては、ありとあらゆる種類の変換プラグが必要とされているのです (なので、中国へ行かれる方には、どんな形状のプラグにも対応できる 『マルチ変換プラグ』 をオススメします)。 どうしてこんなにバラバラなのでしょう。

世界的に使われているコンセントをルーツごとに大別すると、 アメリカタイプ、英国タイプ、ヨーロッパタイプ、オセアニアタイプの4タイプに分けられます *2

Type A (American Type)

Aタイプ
Aタイプ

日本でAタイプと呼ばれているアメリカタイプはお馴染みの平行棒タイプで、北米・中米に多く見られます。 穴の数は、二つのものと、三つ(もう一つは丸っこい穴)のものがあり、二つ穴用のものを差し込んでも使えます。 ただ三つ口のものは、日本では200Vなど、特殊なコンセントとして使われていることが多いので、注意が必要です。

Type B (British Type)

BFタイプ B3タイプ Bタイプ
左から、BF、B3、Bタイプ

日本でBxタイプと呼ばれる英国タイプは、 イギリスや香港やシンガポール、マレーシアでよく見られます。 上記の国々では、現在はT字に三つの穴が並んだタイプ(BFタイプ)が標準となっていますが、 インドやスリランカなどでは、丸い穴が三つ開いたもの(B3タイプ)が標準となっています。 これは、イギリスでも1962年まで標準だったものです。 そのほかに、Bタイプと呼ばれる二つ穴のものもあります。 それぞれに互換性はありません。

Type C (Continental Type)

Cタイプ SEタイプ
左から、C、SEタイプ

ヨーロッパのコンセントは国によって様々ですが、差込はどれも、丸い小さなピンです。 二つ穴だったり、三つ穴だったり、穴が一列に並んでいたり、ずれていたりと様々ですが、 穴の間隔が同じなので、二つ穴で、穴が深くて小さいもの(Cタイプ)と、 穴が浅くて大きいもの(SEタイプ)の二つを揃えれば間に合うようです。 形は似ていますが、穴の間隔が微妙に異なるBタイプとの互換性はありません。
EC連合は各種規格の統一を進めているので、プラグも今後、統一されてくるかもしれません。

Type O (Oceanian Type)

Oタイプ O2タイプ
左から、O、O2タイプ

オセアニアに普及しているタイプです。Oタイプと呼ばれています。 差込口がハの字型になっているのが最大の特徴で、二つ穴のものと三つ穴のものもあります。 オーストラリアの三つ穴は、二つ穴用のプラグで代用できるようですが、 三つ目の穴にシャッター膜がついており、穴に何かを差し込んで シャッター膜を押し上げないと、通電しない仕組みのものが、中国にあるようです。 こういう仕組みに対応したプラグはO2タイプと呼ばれています。

このようなタイプ別に世界地図を塗り分けてみると、どういうことになるでしょうか。 Electricity around the world(World Standards) のページの下のほうに、コンセントの形状毎に色分けされた世界地図があります。 この地図のページでの種別と各タイプの名前は、上記のものとは異なりますが、 対応させてみると、だいたい

アメリカタイプ: えんじ色
英国タイプ: オレンジおよび青
ヨーロッパタイプ: 緑
オセアニアタイプ: グレイ

となります。

この地図によれば、コンセントの形状を大まかに4つに大別してもなお、 全く異なるルーツの型を併用している国もあることがわかります。 たとえば中国はアメリカタイプと英国タイプとオセアニアタイプを併用している。 要するに、中国では、見た目の形状のみならず、 ルーツさえもが異なるコンセントを複数併用しているということになります。 いったいこれはどうしてなのでしょう。

上記でご紹介した地図 をしげしげ眺めていたら、ふと思い当たりました。 20世紀前半の列強の勢力範囲と似ているなあという気がしたのです。 そこで、わたしも地図を書いて、比べてみることにしました。

アジア地域に絞って、ルーツごとに4種に大別したコンセントの分布図と、 アジアにおける20世紀前半の列強の勢力範囲を記したのが 以下の二枚の地図です。

20世紀前半のアジア地図
図1 アジアにおけるコンセントの形状分布図 *3

20世紀前半のアジア地図
図2 20世紀前半のアジアにおける列強諸国の植民地および勢力範囲 *4

この2枚の地図を見比べたご感想はいかがでしょうか。
マレーシアやシンガポールなど、イギリス領だったところは英国タイプ、 オランダ領だったインドネシアや、フランス領だったベトナムにはヨーロッパタイプが入り込んでいますね。 アメリカがスペインから買い取ったフィリピンはアメリカタイプとヨーロッパタイプが入り混じっています。

様々な列強諸国の進出を許した中国にありとあらゆるコンセントタイプが混在するという事情も、 これを見ると歴史の必然なのかもしれません。 もともと列強諸国は自国製品を売る市場を求めてアジアに進出したのだし、 旧植民地と旧宗主国の経済的関係はいまだに深い。 コンセントの形状が宗主国に右へ倣えするのはしごく自然なことで、 様々な国の都合に振り回された中国に 様々なコンセントが存在するのもなるほどなあ、と思えてきました。

ところで、コンセントに関しては、日本は統一のとれている珍しい国ですが、 周波数に関しては、統一のとれていない珍しい国です。 世界の周波数は50Hzもしくは60Hzのいずれかですが、 日本は電力供給会社の区分によって、西日本が60Hz、東日本が50Hzと分かれています。 そのおかげで、昔は関東から関西に引っ越すときには冷蔵庫の買い換えが転勤族の頭痛のタネでした。

この両方を併用している国は、世界広しといえども、 日本と、中米にあるオランダ領のアンティルという地域だけのようです *5。 一体どうしてこんなことになっちゃったんでしょうね。

その答えは、こういうことのようです*6。 明治時代、東京電灯(東京電力の前身)が購入したのがドイツ製の50Hzの発電機で、 大阪電灯(関西電力の前身)が購入したのはアメリカ製の60Hzの発電機であったから。 面白いですね。

国内に50Hzと60Hzが混在するおかげで、今の日本の電化製品は50Hzにも60Hzにも対応できるようになっています。 なので、海外へ行っても、周波数のことは気にする必要がない。 怪我の功名ですね。

ついでに、電圧についても調べてみました。
実は、日本は世界一、電圧の低い国です。100V。 こんなに電圧の低い国は他にはない。 なので、外国で日本製の電化製品を使う際には、どこへ行くにも変圧器が必要と思っておいたほうが無難です。 なぜこんなに低いのでしょうね。

電圧に関しても、コンセントの形状と同じように大別してみました。 アメリカタイプ(120V前後)、ヨーロッパタイプ(220V)、英国タイプ(230〜240V)の3つに大別し、 地図を描いてみました(図3)。 コンセントタイプの分布となんとなく似ていますね。 100Vの日本もアメリカタイプの一部といえます。

実は、日本がアメリカに倣って110Vにしなかったのは、当時普及していた電球との絡みのようです。 *7

20世紀前半のアジア地図
図3 アジアにおける電圧分布図 *8

世界には、いくつもの時間帯を持った国が珍しくありません。 コンセントの形状が複数ある国もたくさんあります。 バラエティに富んだ風貌の多民族国家も当たり前。 いろんな言葉が一つの国の中で話されるのも、至極普通。 日本人が当たり前に感じている均一性が、世界では当たり前ではありません。

一方、日本には周波数が二つある、世界で唯一の国です。 そして世界で最も電圧の低い国。 そういう環境にあって、いまや日本人は、周波数の違いを技術で乗り越えてしまいました。 "統一"する以前に、"乗り越えて"しまった。 電圧の違いも、自動変圧機能で乗り越えようとしている。 世界中のコンセントに対応しようとするマルチ変換プラグもあります。

――これはすばらしいことだとは思いませんか。

*1 コンセントの形状については、以下のサイトを参考にしました。
旅行ガイド: 地球の歩き方 国別基本情報
旅行用品販売会社: 主要国のプラグと電圧(三洋堂)FamiMet/世界の電圧とプラグ
プラグメーカー: 世界の電気事情(株式会社 忠利)
その他: Electricity around the world(World Standards)IDC Plugs海外の電源事情(永井電子)世界の電圧(世界の国旗)
*2 イスラエルのものなど、この4種類に含まれないタイプもあります。
*3 元データは Electricity around the world(World Standards) のものを参照。このサイトを元データとして採用したのは、国ごとに使用しているコンセントの形状が、比較的絞り込まれているため。
*4 世界史地図・年表 山川出版社参照。 白地図の提供元:World Atlas of Maps Flags and Geography Facts
*5 世界の電圧(世界の国旗)参照。
*6 電気事業の歴史(中部電力)参照。
*7 日本の電圧はなぜ100Vか参照。
*8 元データは Electricity around the world(World Standards) のものを参照。