 
	パッセージ・ピークの山頂付近には大きな岩が突き出ているのを何度も目にしたが、 海抜十数メートル程度の広い道に帰ってくると、 道の両脇には今割れたばかりのようなとがった石がゴロゴロしていた。 この辺の石は、大きくてもうさぎの両手の中に納まる程度の大きさで、 墨流しのような模様が入っている。 不思議なのは、色が様々なこと。赤っぽいのあり黄色っぽいのあり、 青っぽいあり白っぽいあり。
山を下りきってキャッツアイビーチ沿いに広がるリゾートサイド内に入ると、 石はやにわに丸くなった。山を転げおちたせいなのか、波に洗われたせいなのか。
ビーチに出てみると、砂もさっきの石が細かく砕けたもので出来ているようだった。 手の平に乗せてよく見ると、砂の一粒一粒が色とりどりの宝石のように光ってきれい。 けれど遠目で見ると美しく見えない。海岸沿いにもまだ細かい石が残っており、 粒の色や大きさが均一でないため、全体的にくすんで見えるのだ。
	ここでも砂や石を採集するうさぎ。ホワイトヘブンビーチの砂と違い、
	ここの砂を採集しても、心は一向に痛まない。
	うさぎ以外、ここの砂など、だれも見向きもしないに違いないから。
	けれどうさぎにはこの砂だって大事。――どうしてかって?
	‥まあ、甲子園の砂のようなものである。
	
	ホテルの部屋から見ても、干潮時のキャッツアイビーチはお世辞にも美しいとは言えず、
	泥 (実際には砂だった) が広い範囲に堆積しているように見えた。
	ここが美しく見えない最大の要因は、非常に遠浅なために波打ち際がはっきりしないこと。
	それゆえ、海中とも砂浜とも呼べない、
	じめじめとした湿地ばかりが広がって美観を損ねているのだ。
	もっとも別の生き物にしてみれば、こういった湿りけのある環境が天国かもしれず、
	地面に開いた小さな穴から小さな生き物が出たり入ったりしていた。
	あの奇跡のように美しいホワイトヘブンビーチにはあまり生き物がおらず、
	貝殻すら滅多に落ちていなかったのと対照的だ。
	
そして、奇跡の白砂ビーチのからくりがどうなっているのかは分からないが、 そこからたった10キロ離れただけの、このビーチの成り立ちは単純明快。
	山を形作っている大きな岩が砕けて石になり
	その石が転げ落ちて海に落ち、
	波に洗われて丸くなる。
	それが更に細かく砕けて砂になる。
	
	砂は海の中に堆積し、海はどんどん浅くなる。
	山も風雨に削られどんどん低くなる。
	
こうして地球はだんだんつるつるになってゆく――。