China  蘇州

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【 タクシー顛末記 】

夜の平江客桟

蘇州での滞在を少しでも長くするため、初日から蘇州入りすると決めていた。 だが成田発のノースウェスト航空機が上海に到着するのは夜の9時。 蘇州行きの長距離バスはすでに最終便が出てしまっている。 苦労して上海駅まで行っても蘇州行き新幹線の当日切符が買えるという保障もない。 となると、蘇州まで行く手段はほぼタクシーに限られる。

空港のタクシー乗り場では 危なっかしい中国初心者の二人組を見ちゃおれなかったせいなのか、 中国にお詳しそうな敏腕日本人ビジネスマンお二方と、 ヨンさまそっくりなさわやか笑顔の空港係員が何くれとなく世話をやいてくれ、 なんだかよく分からないうちに、 気づいたら「蘇州の目的地まで400元、高速代込み」という約束で まったく英語・日本語の通じない個人タクシーの後部座席に二人して納まっていた。 上海の空港から蘇州まではメーターで走っても500元近くかかる というのが通り相場だから、まあ悪くない価格だ。

運転手さんは、人のよさそうな好々爺。でも‥。

お願いだから、メモ読みながら高速で運転しないで!
お願いだから、ケータイで話しながら運転しないで〜!

小一時間ほど走り上海市内に着くと、タクシーはなぜか快適な高速道路を降り、 渋滞する街中に繰り出した。

なぜわざわざこんな街中に?
こんな渋滞じゃあ、今日中に宿に着くかどうか‥。

とある街角で中年の男が一人待ち受けていて、 車はキュッと止まるとその男を乗せ、また走り出した。

えっ、えっ?! なんかヤバくない? この状況!!
銃でも突きつけられて身包みはがされるんじゃ‥。

そう思わないでもなかったが、 どうやらこの爺さん、蘇州まで自力でたどり着く自信がないので、仲間を呼んだだけのようだ。 さっきの携帯電話の通話相手は助手席に座ったこの人だったらしい。 案の状、車はガソリンスタンドにつけ、そこで運転手交代した。 それはそうと、好々爺が愛想良く笑いながら指をすり合わせてわれわれに何か言っている。

エッ!! 「ガソリン代がないので100元くれ」だと?!

オイオイ、まさかガソリン代は別途とか言わないよね?? ガソリン代支払ったこと、まさか忘れちゃったりしないよね?? とても気が進まなかったが、われわれが払わないとガソリン代の持ち合わせもなさげだったので、 仕方がなく100元を前払いした。 「すでに100元払ったんだから、あと300元だからね!」と筆談で念を押すと、 好々爺は愛想良く頷いたが、しばらくすると「バイバーイ♪」と車を降りて行ってしまった。

新運転手を迎えたわがタクシーは、好々爺を下ろすとやっと高速道路に乗り直し、 推定速度130キロで蘇州まで88キロの距離を驀進し始めた。 おお、このスピードならなんとか今日中に宿に着きそうだ。

‥と思ったのは早計だった。 問題は、蘇州で高速道路を降りてからだったのだ。 どうやらこの運転手、蘇州までの道はわかっても、それから先、 蘇州市内はまったくの不案内らしい。

高速の出口で係員に道を尋ねたのを最初に、会う人、会う車ごとに道を聞きまくる 道中が始まった。

試しに数えてみたら、その数7回!

7回尋ねてやっと、車は我々が泊まるホテル近くにある蘇州大学の正門に到着した。 運転手は実に誇らしげな顔で、さあどうだ!といわんばかりに後部座席のドアを開けた。

う‥うん、でもゴメン、蘇州大学が目的地じゃあないんだよね‥。

われわれが泊まる宿は小さなホテルで知名度がない上にもってきて、 狭い路地に面しており、タクシーは入れないと聞いていたので、 地図のホテル最寄の大通りの角の位置に○をつけ、運転手には 蘇州大学のすぐ近くであることを強調しておいた。 それがいけなかった。ゴメンね、運転手さん‥。

目的地が蘇州大学ではないことを知ると、けなげにも運転手は一瞬で気を取り直し、 もう一度我々を後部座席に乗せると、宿の名を尋ね、もう一度走り出した。 そして8回目、蘇州のタクシーを捕まえて宿までの道を尋ねると、 その蘇州のタクシーの運ちゃんが誘導してくれることになった。

手馴れた蘇州のタクシーはえらい勢いで旧市街をぐるりと大回りし、見事に狭い路地の突き当たりにある 宿の目の前にピタリと車をつけた。 時計を見ると、すでに真夜中の1時近く。9時半に乗車して3時間以上、 インターチェンジで降りてからだけでもかれこれ1時間以上が経過している。 でもまあいい。運転手の奮闘振りに敬意を表し、きりんが400元のうちの残り300元と、 10元のお愛想をつけて運転手に渡した。

ところがこの10元のチップが良くなかった! この客は金払いが良いらしいと見るや、運転手の顔つきが変わり、

「高速代の分、あと30元」と来た!

「いやいや、それは400元に含まれているはずだ」と言ったが、運転手は取り合わない。 きりんは腹を立てつつ、20元足した。 それにさっきの10元を合わせれば430元になる。

ところが運転手はそれでもイヤだと言い張る。 さっきのはチップだ。高速代はあと10元足りない、と。

まるで駄々っ子のような運転手の姿に呆れ果てていると、 ここまで誘導してきた蘇州の運転手がやはり同じように呆れ、 「もういいじゃないか」と彼をなだめ、とりなした。 上海の運ちゃんもそれでやっと諦めた。

いやはや、1時間以上も余分に上海・蘇州の街中をひっぱり回された挙句、 それでも寛大さを発揮して渡した10元のチップが裏目に出るとは‥。 この一件で、うさぎは自分の人を見る目のなさをうらんだが、 その後も、客の金払いが良いと見るや、最初の価格交渉など簡単に忘れる商売人に何度か出会い、 どうやら相手に悪気はないらしい、と気づいた。 つまり、騙しているつもりはない。 だから人相も悪くない。 この国で金払いの良い客からなんだかんだと理由をつけて搾り取るのは、商売人の甲斐性なのかもしれない。

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