Essay  うさぎの旅ヒント

【 中学生のカルチャーショック 】

うさぎが初めて海外へ行ったのは、中学2年の夏休みだった。 アメリカはミネソタ州のとある小さな村に、ひと月ほどホームステイに行ったのだった。
それは今から四半世紀ほど前のこと。 為替レートはまだ変動相場制に移行したばかりで、1ドルが360円もした。

当時の合衆国は、東洋の小国から訪れた中学生の目に、なんと魅力的に映ったことだろう。 発展途上国を訪れると、過去にタイムスリップしたようなノスタルジックな気分になるが、 当時のうさぎはアメリカ合衆国に未来を見た。

羽田空港ではバスで飛行機の近くまで行き、タラップを登ったうさぎは、 給油のために寄ったシアトルで、 飛行機から直接ターミナルビルに入れたことにまず度肝を抜かれた。

ステイ先の家で衣類乾燥機や食洗機を見た時は、「ここはSFの世界か?」と思った。

親戚のおじさんに「わたしのラジオはソニーだよ。これはなかなか具合がいい」 と言われた時の誇らしい気分は、今でも忘れられない。

日本の首都から来た中学生はアメリカの片田舎でカルチャーショックをいくつも経験し、
「いつか日本もこんなに豊かになる日がくるのだろうか」 という期待を胸に抱いて国に帰った。 当時の日本は既に世界一の経済大国になりつつあったが、 やっと築き上げた富を投資目的から外れた消費にまわすだけの精神的ゆとりはまだなく、 生活を楽しむための出費に何のためらいもないアメリカ人の豊かさに、 うさぎは心から憧れた。

今日、貧しい国で現地の人々の羨望の入り混じった目を感じる時、うさぎはいつも思い出す。 自分にもかつてこんな目をしてアメリカを見つめた日があったことを。

2001年6月30日 うさぎ

<<<   ――   u-001   ――   >>>
NEW    HOME