Hawaii  大家族でバケーション

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【 プロローグ 】

まさか全員揃うとは思っていなかった。 11人もいれば、必ず誰かが間際になって参加できなくなるんじゃないかと思っていた。 それはそれで仕方がないと諦めてもいた。

メンバーが11人なら、想定されるハプニングも11人分。 何か手違いがあって、約束の時間に誰かが遅れてくるくらいのハプニングは当然あると思っていた。 天候不順で電車が止まったらどうしよう、集合場所でうまく会えなかったらどうしよう、 何かあったらどうしよう‥? もしそうなっても慌てないぞ。 行かれる者だけで行っちゃうぞ。 乗れる者だけでも飛行機に乗って、絶対ハワイまで行くんだ!と思っていた。

それが。騒動らしい騒動も起こらず、空港で見事に11人揃った。 ツアーコンダクターをかってでたうさぎは、 「今回の旅はもうこれ以上、何も望むまい」と思った。

家系図

父と母と妹一家、そしてうさぎたち一家。 三つの核家族は成田空港駅に無事集合を果たし、ここ第一ターミナルの出発ロビーまで上がってきた。 お盆脱出組がピークを迎える8月12日の今日、成田空港はいつもより混んでいる。 とはいえ、平日のディズニーランドの混み方ほどでもない。 「ご家族でどちらへお出かけですか?」と尋ねる報道陣もいない。 ちょっと期待していたのに‥。 なんだ、がっかり。

ノースウェスト航空のチェックインカウンターは長蛇の列。 Iカウンターの回りをぐるりと半周以上も列が取り巻いていて、 これは順番がくるまでに一時間で済めばいいが‥、と危ぶんだが、杞憂に終わった。 最近導入されたと思われる自動チェックイン機(これが噂のEチェックインってヤツなのかもしれない) のおかげで、瞬く間に人が捌けていった。

ただ驚いたのが、セキュリティチェックの厳重さ。 おりしも前日、ロンドンで旅客機爆破テロ未遂が起きたばかりとあって、 やけにモノモノしい雰囲気である。

チェックインカウンターの列に並んでいるうちに、早速一人、係員に捕まった。 うさぎの甥っ子の一臣である。 英語で係員に話しかけられ、スーツケースを開けるよう、命じられたようだ。 一体どこからそんなDNAを引っ張りだしてきたものか コイツはやたら日本人離れした風貌をしているから、外人と間違えられたのだろう。 おまけにカッコつけてサングラスなんかかけてるんだから、怪しまれても仕方がない。

英語がわからずモジモジしていた一臣は 「これは預ける荷物ですか?」と係員に日本語で畳み掛けられ、 「えっ、預けるってのは‥飛行機の‥腹ン中に‥??」とかわけの分からない受け答えをしているうちに、 あれよあれよという間に遠くの荷物見せ場まで連行されて行ってしまった。

ありゃりゃ〜。 一人で大丈夫なんだろうか。 今回生まれて初めてパスポートをとったばかりの高校一年生である。 戻ってくるとき迷子にならなきゃいいけど‥。 うさぎは危ぶんだが、その不安とは裏腹に、さっきの会話を思い出してクツクツ笑いがこみ上げてきた。 まったく、厳戒体制下でぴりぴりしている空港係員を向こうにまわして「飛行機の腹ン中に?」も何もないものだ。 こういう言い回しは、自分の娘たちだけ連れてたら、絶対聞けないよなあ。

チェックインを終えると、一行は出国ゲートの前で立ち止まった。 今回のセキュリティチェックは格別厳しい。 機内に持ち込む液体関係は、飲み物、化粧品の類を問わず、すべて没収だそうだ。

「みんな、没収されそうなものは持ってないわね?」 うさぎがそう言うと、
「あら、じゃあこれもダメかしら?」とうさぎの母、ままりん。 皆で袋を覗き込むと、ぶどうがどっさり!
「なんでこんなもん持ってくるんだ?!」と誰かが叫ぶ。
「あらだって、おなかがすくと思って」とままりん。
「これも一応液体とみなされるかも??」とうさぎ。 腹の中に収めてしまいさえすれば没収されるまい。 セキュリティチェック脇のソファに陣取り、11人でせっせとぶどうを食べた。

セキュリティチェックでは、靴を脱がされた。 ついに日本にも上陸したか、靴脱がし審査! 慣れないことに、係員も緊張ぎみ。 成田で靴を脱がすなんて初めてだ。

と、突然ブザーがビーーッと鳴った。 おチビの姪っ子さくらだ。 ポケットに入れていた何かが金属探知機に引っかかったらしい。 ま〜ったく、お子ちゃまってのはどうして ろくでもないあれやこれやでいつもポケットをいっぱいにしておきたがるのだろう?

だが、おちびのポケットの中身はまだ可愛らしいものだった。 金属探知機にこそひっかからなかったが、ゲート近くのソファで搭乗を待つ間、 二番目の甥っ子仲麻呂が広げた荷物にうさぎは目を剥いた。 まあー、出てくるわ出てくるわ、リュックの中から分厚いハードカバーの立派な本が1、2、3、4、5冊!

「あんた、いったい何よこれ?!」 御年14歳の若造に尋ねてみる。
「夏休みのレポートだよ。読書感想文書かなくちゃならねえんだ」
「‥で、一体何で書くつもり?」
「紫式部と清少納言だって」と、うさぎの妹のリス子が息子の代わりに答える。
「‥はあ。そりゃまた風流なことで‥」

傍らに積まれた本を見やれば、確かに。 源氏物語が原文で全巻揃っている。 あのー、何もこんな重たい本持ってハワイにいかなくても‥。

仲麻呂がハワイ行きの航空機を待つ成田のロビーで源氏物語を読み出したので、 高校生のお兄さんお姉さん方も、負けじと宿題を取り出した。 決して勉学に適切とはいえない薄暗い照明の下、英語のテキストを朗読する若者、約2名‥。

‥あのねえ、勉強熱心なのは構いませんが、 こんなところまできて寸暇を惜しむ心意気あらば、 毎日昼まで寝てるなよ!!

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