Hawaii  大家族でバケーション

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【 宿到着 】

宿付近

源三郎が無事釈放されると、一行はレンタカーを借り、早速宿へと向かった。 レンタカーは日本で予約していったバジェットレンタカー。 英語で保険だのなんだのが入り混じった契約を交わすのは非常に難儀だが、 今回は英語と車に詳しいのが一人いるから気が楽だ。

2台借りた車は、リス子と源三郎が運転した。 6人乗りの源三郎の車に子供を5人集め、残りの大人4人がリス子の車に乗った。 アメリカ滞在経験が長く、左ハンドルの運転にも慣れている源三郎なら これから先の人生が長い大事な子供たちを安全に宿まで運んでくれるだろう。

宿があるエリアへの道は至って簡単。 ひたすら一号ハイウェイを東へ東へ向かうだけだ。 ワイキキの北を抜け、マウナルアベイを右手に見ながら更に走り、 ココヘッドの手前で右折する。

住宅街に入ってからは目指すハナペペ通りがなかなか見つからず、少々手間取った。 それもそのはず、ハナペペ"ループ"とよばれるその通りは 海に突き出した岬の突端に輪っか状になっており、 そこに通じる口は一箇所しかないのであった。

だが、瀟洒な家の立ち並ぶ住宅街の中で、一週間自分たちのものになる家はどれだろう? とキョロキョロするのは悪くない。 ようやくハナペペループを見つけ、番地が近づいてくると、興奮はいよいよ高まるのであった。

やっと見つけた家は、並みいる豪邸の中で、比較的こじんまりとして見えた。 海に向かってひな壇になったこの住宅街では、 道路付けが海側の家と、山側の家との二種類がある。 道路付けが海側の家は庭も窓も道路に面して大きく開けており、 いかにも楽しげに見える。 それに引き換え、山側道路に面した家の玄関は地味で、こじんまりとして見える。

山側道路のその家の玄関を見たとき、正直なところ、皆は少しばかりがっかりしたのではないかと思う。 一瞬言葉少なになった。

けれども、おおらかな家主に迎え入れられ、 観葉植物で埋め尽くされた長い玄関の通路を抜けて出たリビングに出た途端、 そのがっかりは木っ端微塵に吹き飛んだ。

八角形の大きなリビングは鮮やかなグリーンの庭に縁取られ、 その向こうに見えるのは、これ以上青くなりようがないような海だった。 真っ青な海ならここに来るまで、すでにさんざ目にしてきたはずなのに、 ここでまたアッと驚かせてくれるのは、長い玄関通路の仕業だろう。 道からは見ることのできないプライベートな庭ごしに見る海は、まるで自分たちだけのもののようだった。

「なんて真っ青な海!」 この光景を見るなり真っ先に叫んだのは、ままりんだった。 「ああ、ホテルにしなくてよかったわ!」

ままりんのその言葉は、うさぎを心底喜ばせた。 なぜってそもそも今回のハワイ行きは、 誰よりもまず、ままりんを喜ばせたくて計画したものだったから。 しかもそのままりんはずっとホテルにこだわっていた。
「ホテルのほうが自炊しなくて済むじゃないの」
「全く知らない人から家なんか借りて、大丈夫なの?」
「別荘って、タオルはあるの? 寝巻きは? 歯ブラシは?」
‥タオルはともかく、そんなもの、ホテルにだってないのだが。

だがままりんが言うのはいちいちごもっともで、 本当はうさぎにだって全く不安がないわけではなかった。 ネット上を探せばいくらでも情報が見つかる大ホテルとは違い、個人が貸しだす住宅の情報は少ない。 ウェブサイトに写真くらいは掲載されているが、実際のところ、家がどのような状況なのかは未知数だ。 メールのやりとりである程度推し量れはするが、家主の人となりは本当のところは分からない。

分からないことだらけだから、こっちもある程度許容範囲を広げてかからないとならないし、 自分はいいとしても、他の面々がどう感じるかはまた別問題である。 快適性にある程度予測のつく大ホテル滞在とは違い 情報の少ない小さな宿の滞在は、満足のいく結果に終わるかどうか、神のみぞ知る。 ほとんど博打なのである。

それでもうさぎは一軒屋にこだわった。 11人の大家族水要らずで集える場所があること、それだけは決して譲れない条件だったからだ。 せっかく大人数で旅をするのに、この11人というスケールメリットを活かさなくてどうする。 11人で泊まれるスイートルームなんてものがホテルにあれば話は別だが、 ホテルの部屋に各家族分かれて泊まるのでは小家族単位で旅行するのと大して変わらない。 うさぎは大家族がみんな一緒に、一つ屋根の下で一週間暮らすことにこだわった。 だから皆で集える広いリビング、皆でバーベキューのできる広い庭があることが必須条件だったのだ。

「ホテルにしなくてよかったわ!」 ままりんのこの一声を聞いた瞬間、うさぎは早くも「賭けに勝った」と思った。 このリビングに足を踏み入れた瞬間、ままりんはうさぎの意図を一瞬で理解したのだろう。 日本で何度言葉で説明しても分からなかった大リビングの意義が、 現場に立った途端、直感的にのみ込めたのだ。

驚いたことにままりんは、 ハワイでやりたいことの筆頭に挙げていた写真館での写真撮影を やらなくてもいい、と言い出した。 ハワイに到着して早々、まだ時間はたっぷりあるというのに、 なにも一番やりたかったことを諦めることもなかろうと思うが、ままりんは 「写真館で正装して写真撮るより、ここで皆でワイワイやってる場面を たくさんスナップして帰ったほうがいいような気がしてきた」と言うのである。

この家は、ゆったりとしていた。 家の外にも中にも、そこここにソファやら椅子が置いてあり、 めいめいがそれぞれに自分の居場所を見つけられそうな、見るからにそんな気がした。 自分の家としてくつろげそうな、そんなムードだった。

子供たちは早くも荷物を解き、トランプを始めた。 さあ、これから一週間、みなでこの家に暮らすのだ!

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