Palau  パラオ

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【 秘境探検 】

カヤックツアー

カヤックは4年くらい前に一度やったことがあるきりだったが、案外簡単にスイスイ進んだ。 グッとひと掻きすると、グン、と面白いように前に大きく進む。 力はそれほど必要なく、その代わり、「進め!」と心の中でひと掻きするごとに気合を入れるのがコツのようだ。

進め! 進め! カヌーよ! 進め!

うさぎたちはしんがりで、一人乗りのカヌーを操っているガイドさんを追った。 陸地に近づくにつれ、水は透明度を落とし、濁った緑色に変わった。 こんもりと緑をたたえた小さな島や、不規則に突き出た半島やらで、地形はごちゃごちゃしている。

障害物が多くて見通せないので、先にどんなことが待ち受けているのか分からない。 それが楽しい。ドキドキする。 水面は穏やかで、波はない。 海であって、海でないような、不思議な海だ。

ひと連なりの小島を迂回すると、その陰には、四方八方を島に囲まれた秘密めいた入り江があった。 ホー、ホー‥。 豊かな緑のどこかで、鳥が鳴いている。 パラオの国鳥ビーブ(アオバト)の鳴き声だそうだ。

奥のほうには大きな洞窟が口をあけている。 ガイドさんはその洞窟目指して進んだ。 どんどん水深が浅くなってゆく。 カヌーがときどき、水底をこすった。

がらんとしたくらい洞窟に入りかけたところで、ガイドさんが言った。
「ここは戦争中、ゼロ戦格納庫だったところです」
これは鍾乳洞を利用した天然の格納庫で、日本はここに2機、アメリカ軍の目を避け、 水上飛行艇タイプのゼロ型戦闘機を隠していたのだそうだ。 暗闇に目をこらすと、天井からツララ石が下がり、コウモリがいっぱいぶら下がっていた。

「じゃあ、そのゼロ戦は一体今どこにあるかというと」とガイドさんは続けた。 「あっちのほうに沈んでいます」

彼の指さす明るい外を見ると、プロペラの残骸のようなものが、浅い海から突き出していた。 この格納庫の泣き所は、戦闘機をずっと格納したままにしておけないことだった。 水位が上がってしまうと格納できず、満潮の間は外に出しておかなくてはならない。 ある日、出しておいたところをB29に見つかり、爆撃されてあえない最期を遂げたのだそうだ。

「もう一基も近くにあるんですよ。行って見ましょう」 ガイドさんがそう言って洞窟から出た途端、青い空に、 真っ白な鳥がつがいで、す〜っと長い長い尾をひいて飛んでゆくのが見えた。
「あっ! 見て! 空! ほら! あれ! 鳥!」 うさぎは夢中で叫んだ。 しまった、カメラが手元にない。 さっき自分の姿を撮ってもらおうと思って、きりんに渡してしまったのだ。
「パパ、撮って!!」

それは一瞬の出来事だった。 きりんがもたもたしているうちに、鳥は森の陰に姿を隠し、それっきり二度と現れなかった。 まるで夢を見ているみたい。

鳥の名はシラオネッタイチョウ(白尾熱帯鳥)。 こんな鳥がいることは、昨日ツアーを申し込むときに図鑑で見て知っていたが、 こんなにきれいだとは思わなかった。 ほんとうに、ほんとうに長い尾だった。 見事なまでに真っ白だった。

さて、もう一基のゼロ戦は、木陰の水の中に、 翼を広げたありし日の姿のままで沈んでいた。
「今日はずいぶん水の透明度がいいなあ。 このゼロ戦がこんなにくっきり見えるのは珍しいなあ!」 ガイドさんが感心したように何度も言った。

――そうか、このひとはしょっちゅうここに来て。このゼロ戦を見ているんだ。 今日のゼロ戦、昨日のゼロ戦、明日のゼロ戦。 満潮だったり干潮だったり、水の透明度が高かったり低かったりする様々な状態で。 なんだか不思議。 我々にとっては秘境探検でも、このひとにとっては日常なんだな。

そのあと、一行は「青の洞窟」に向かった。 見た目は何の変哲もない狭い洞窟だが、 中に入って暗闇に目が慣れた頃、 そっと入口近くまでまで引き返すと、水の色が真っ青に見えるのだそうだ。

実際にやってみたところでは、水の色は、青というより、緑っぽかった。 ガイドさんは言った。
「ここは難しいんですよね。 角度によって、奥のほうまで日が入るときとそうでないときがあって、 もう少し日が低いと、もっと真っ青になるんですよ」

なるほど、ゼロ戦と違って、こちらはベストの状態ではなかったと見える。 でも、この洞窟は、潮が高すぎても低すぎても入れない。 天井が低いから、かなりその条件は厳しいはずだ。 その厳しい条件を潜り抜けて入れただけでもラッキーと思うことにしよう。

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