 
	プールからビーチへ向かう時、その廊下に子象がいた。
	「ねえ、ゾウがいるよ!」と声を掛けると、子供たちはパーッと走ってきた。
	だが、いざゾウを目にすると、二人とも固まってしまい、遠巻きに見ているだけで近くに寄らない。
	ゾウの方が少しでも近づこうものなら、跳んで逃げる、といった感じだ。
	
	うさぎは
	「ほーら、怖くないんだよー」とゾウの鼻を撫ぜて二人に見せた。
	すると。
	にゅ〜〜っと長ーい鼻が伸びてきて、うさぎの頬にべちゃっ、と張り付いた。
	ゾウ使いのおじさん (お兄さん?!) が「キス、キス」と言った。
	
「怖くない」と子供たちに言った手前、逃げるわけにもいかず、されるがままになっていたが、 ゾウの鼻の内側 (下側) はヌンメリした感触でヘビを連想させ、うさぎは思わず鳥肌が立った。 外側 (上側) は、こわくて長い毛がまばらにゾリゾリ生えており、ボソボソしていた。 これまたひげ面の男に擦り寄られたような気分で、なんとも気色が悪い。
	ゾウのボンボリちゃん (女の子で、頭にリボンもつけている) は
	尚もしつこくうさぎの体や顔を鼻の先で撫でまわした。
	「うわー!!  もうやめてーーっ!! 」とうさぎは心の中で叫んだ。子ゾウとはいえ、体はかなり大きい。
	体重も1トンくらいはありそうだ。撫で回されて気持ちが悪いだけでなく、うさぎもやっぱりゾウが怖いのであった。
	のしかかられでもしたら、ただで済みそうにない。
	近くに寄ってみて、初めてそういうことに気づいたうさぎであった‥。
	
	しばらくして、ゾウ使いが、ネネとチャアを順番にゾウの背中に乗せてくれた。
	ゾウ使いが何か指示すると、ボンボリちゃんは後ろ足を曲げて座り、子供たちを背中に乗せた。
	うさぎは大喜びでカメラのシャッターを切った。だが、本人たちはひきつっている。
	ゾウの背中は高く、落ちそうで怖いのと、ゾウの毛が水着のお尻に当たって痛いのらしい。
	チャアなど、ゾウ使いがゾウを後ろ足で立たせたものだから、ずり落ちそうで、半分ベソをかいていた。
	うさぎはゾウの全身を入れようとして後ずさりをしているうちにこの一大イベントが終わってしまい、
	シャッターチャンスを逃して悔しがったが、泣き出しそうなチャアの顔を見たら、
	もう一度これをやって欲しいとはとても言えなかった。