2005年3月15日 イギリスのおばあちゃん

最近、海外オークションにハマっています。 日本ではレアグッズとして高値で取引されているものが、 海外ではよく出回っていて手ごろな価格で入手できることもあり、 また、荷物を解いたときに一瞬漂う、異国の香りがたまりません。

ただ海外とのやり取りは、国内でのやり取りに比べると、リスクが大きいのが難点です。 商品の説明ややり取りなど、すべてが英語であり、微妙なニュアンスが分からないこと、 個人個人の感覚の差異が、国内よりも大きい可能性があることに留意して取引を行わなわねばならないので、 国内オークションにも増して細心の注意が必要です。 これまで何度か海外オークションで買い物をしましたが、 国内オークションに比べ、入札が億劫で、 届いた品物を取り出すときの不安の大きさも格段で、 一つ取引を終えるごとに、ハア〜〜〜ッと大きなタメイキが出ます。

先日、「良い状態」(in good condition)と記述されていた陶器のエッグカップを イギリスから取り寄せたら、小さく欠けた部分がありました。 しかも、日本への送料が予め2ポンド(約400円)であることを先方に確かめておいたにも関わらず、 支払いの際には3ポンド請求され、 実際に先方が英国郵便局に支払った送料は1.69ポンドでした。

どちらか一方であったら、わたしも「まあいっか」と思えたかもしれませんが、 二つ重なったので腹が立ち、先方にメールで文句を言いました。

拝啓 ジュリア・ストライサンドさま

お送りいただいたエッグカップを本日受け取りました。 丁寧な梱包、ありがとうございます。

しかし、残念ながら、私はこの商品に満足しているとは申せません。 このカップには、底の縁周りにカケがあり、引っかき傷も2、3見受けられる状態です。 これは、あなたが記述されたような「良い状態」ではないとわたくしは考えます。 まあ確かに、中古品の陶器の場合、 軽い引っかきキズがあっても、「良い状態」と記述することは可能であると思います。 でも、「欠け」のある商品を「良い状態」と記述することは、あってはならないと思うのです。 それはフェアではありません。 もしこのカップに欠けがあることを知っていたら、わたしは決して入札しなかったでしょう。

それからもう一つ言わせてください。 もし取り扱い手数料がお入用なら、あなたがそれを商品説明の中か、 もしくはわたしが送料について尋ねたときの返答の中で述べるべきでした。

こんな不愉快なメールであなたを煩わせるのは不本意ですが、 あなたのフィードバックのページに悪い評価をつけたくはありませんし、 それに、商品に手紙を添えてくださったことから (※ 「もし商品に満足できなかったら、ご遠慮なくメールをください」と書かれていた)、 あなたは話せば分かる方だと思いましたので、 それでメールをしたためさせていただきました。

うさぎ

先方からの返信

うさぎさん、こんにちは。 今あなたのメールを見つけたところです。 わたしには今時間がありませんので、 後ほどご返信いたします。 24時間以内に必ず。

あなたにご満足いただける解決方法を探しておきますね。 あなたがおっしゃることはごもっともですし、 わたしはフィードバックに悪い評価をいただきたくはありません。 それに、わたしはあなたに喜んでいただきたい。

明日にはこの問題が解決できるよう、答えをご用意いたします。 こんなことが起きてしまったのは残念ですが、 直接コンタクトをくださり、ありがとうございました。

かしこ ジュリア

うさぎさん、こんにちは

今ちょうど時間が少し空いたところです。 わたしはオークションに出品するだけでなく、働きに出ているのです。

あなたがおっしゃるとおり、わたしはフィードバックに悪い評価が欲しくありませんので、 あなたがわたしにメールするという手間をかけてくださったことには、感謝しております。 きっとがっかりなさったことでしょうね。

商品説明には、英国内は送料および手数料を合わせて2ポンドと書きましたので、 「小包を2ポンドで送れるか」とおいお尋ねの際、 あなたが「日本への送料」と書いてくださったにも関わらず、 わたしは英国内の話だと間違えてしまったのです。 あなたも、日本への送料が英国内のそれと同じであることに、疑念を持つべきでしたね。 後知恵ではありますが。

わたしは300gの海外小包料金をあなたに課しました。 いままでこのようなやり方に文句を言っておられた方はいらっしゃいませんし、 わたしの梱包にはみなさん満足しておられます。

わたしは「取り扱い手数料」というのを特にいただいてはおりませんが、 オークションへの出品者には、購買される方々がご存知ない手数料がいろいろとかかるのですよ。 この商品の出品にあたってかかった手数料を以下に書いてみますね。

  1. 開始値1.99ポンドの場合の出品手数料:35ペンス
  2. 終了価格の6ポンドにかかってきたチャージ:30ペンス
  3. 9.18ポンドの支払いを受けたことでペイパルに対し支払った手数料:56ペンス

これだけでも、合計1.21ポンドかかっているのがお分かりいただけることでしょう。

それに商品につけるお手紙をプリントするため、 プリンタのインクを買わなくてはなりませんし、 商品を入れる箱だって買わなくてはなりません。 それに梱包材やティッシュペーパー、セロテープ、 「取り扱い注意」の札も。 その上、商品の写真をたくさん撮らなくてはなりませんし、 その写真をパソコンに載せなくてはなりません。 商品を売るにはものすごい時間と労力がかかるのですよ。 第一、売る商品を探し歩くために車の燃料だってかかります。

こんなことを書くなんて、ずるいとお思いにならないでくださいね。 ただ、わたしは説明したいだけなんです。 オークションは決して、おいしい商売ではない、と。 実際、買い手がつかず、なんの利益も得ずにオークションが終了することも珍しくはありません。 そういうとき、わたしはどうしたらよいのでしょう?

わたしは60歳を過ぎていて、年金生活者です。 オークションはわたしの趣味でもあり、 何か良いものを供給することで、 いろんな人々と触れ合い、喜んでもらえことが嬉しいのです。 でもあなたの場合、わたしは失敗してしまったようですね。 これからは、 商品が本当に状態が良いかどうかチェックするために、眼鏡をかけることにします。

あなたにご満足いただくために、わたしには何ができるでしょうか。 エッグカップの損傷部分を写真に撮ってお送りいただけますか? その写真を持って、英国郵便局に文句を言いに行きましょうか。 それに、もしあなたが次にわたしから何かを買われる際には、お値引きして差し上げても構いませんし、 とにかくできる限り、この問題を早く解決しましょう。 お互いが満足できるような答えが早く見つかることを願っています。 ご意見をお聞かせくださいね。

あなたの英語は大変素晴らしいですが、 わたしが書いたことがすべてご理解いただけることを願っております。

敬具 ジュリア

このメールを受け取ったあと、 わたしは、自分のフィードバックのページに、先方から良い評価が届いているのを発見しました。 そのことからも、先方が、早くこの関係を修復したいという気持ちが読み取れました。

このメールを読んで、わたしが送った返信。

ジュリアさん

ご返信を早々にいただき、ありがとうございました。

このメールに、写真を添付いたしましたので、ご覧ください。 しかしながら、この写真を持って郵便局に文句を言いに行くのは無駄だと思いますよ。 なぜならこれは、英国郵便局のミスではないからです。 カップのカケは、発送時にできたものではないと、わたくしは信じております。 だって、欠けた部分の破片がありませんでしたもの。

あなたは大変良い梱包をなさいました。 他の方と同じくらい、わたしも、あなたの梱包には大変満足しておりますよ。 このエッグカップは、あなたが発送したときと同じ状態でわたしの手元に届いたものと確信しております。

ともかく、わたしはあなたと言い争いたくはありません。 あなたががめつい商人だとは思いませんし、わたしも頭の固い買い物客ではありませんから、 必ずや、お互いにとって良い解決方法があると思います。 それについて、2、3提案させてください。

わたしにとって最も望ましい方法は、このエッグカップを送料あなた持ちで返品し、 わたしが支払ったものを全額、返金していただくことです。 でもこの方法は、あなたにとっては負担が重すぎて、同意していただけないかもしれませんね。

それでは、こんなのはいかがでしょう。 エッグカップはわたしの手元に置き、 あなたはわたしに、商品代金の一部を返却する、というのは。 「良い状態のエッグカップ」のために支払った6ポンドの半分、3ポンドを請求いたします。

また、もし現金の返金を希望されないようでしたら、 わたしに、未使用のきれいなグリーティングカードや、 デコパージュに使うきれいなイラストや、 クロスステッチのチャートなどをお送りください。 なにも新しく買う必要はありません。 あなたのお宅にあるものを送ってくださればいいのです。 そうやって、ご自分の新しい眼鏡を買うためにお金を節約してください。 封筒に入るくらいの軽くて小さなものを選んで、送料の負担を少なく済ませてください。

もしあなたが、わたしを自分の孫だと思って、小さくてかわいいものを選ぶことを 楽しんでくださるならば、 わたしも、エッグカップの欠けた部分と引き換えに、 イギリスにおばあちゃんができたと思うことにいたします。

敬具
うさぎ

この返信に対し、先方から届いたメール

うさぎさん、 あなたのメールには笑いましたよ。 あなたが怒っている態度でないのがとても嬉しいわ。 わたしはうっかり者で、今回のようなことも初めてではないのです。 今までに何度もこういう間違いをやらかし、 そのたびに自分に腹を立てて、もう二度とオークションに出品なぞするものかと思ってきました。 あなたが言うとおり、わたしも争いは好みません。 喜んで、イギリスのおばあちゃんから、小包をお送りしますよ。 きっとあなたをびっくりさせてあげられることでしょう。 よくしてくださって本当にありがとう。 あなたのご提案はとても嬉しいわ。 この週末までに、あなたに小包を発送しますね。 さて、あなたに何を送るか、探さないと。

親しみを込めて
英国に住むあなたのジュリアおばあちゃんより

この後も、楽しいメールのやりとりが続いているのですが、きりがないので、ここまでにします。 まさに「雨降って地固まる」とはこのことで、 トラブルが原因で、図らずも、イギリスにおばあちゃんができました。 先方から見ると、やけにトウのたった孫ですけれどね、わたしは。

今回、クレームのメールを書くにあたっては、最近何度も 「ピーターラビットのてがみの本」 を愛読していたことが役立ちました。 この本には、お誘いの手紙やお礼の手紙に混じって、催促の手紙やらクレームの手紙やらが載っていて、 これでわたしは「イギリス風クレームのつけ方」を学びました。 イギリスでクレームをつける際には決して感情的にならず、 自分の言い分を簡潔にまとめることが肝要であること、 いきなり要求を突きつけるのではなく、まずは相手の出方を見ること、 そして、敵意がないことを示すために、時にはユーモアも必要である、と この本が教えてくれたのです。

エッグカップのカケは、扱うときに危険でないように、ヤスリをかけてなだらかにしておきましょう。 裏を返して見ない限りそんなに目立たないので、充分愛用できると思います。 もしクレームをつけずに泣き寝入りしていたら、 このエッグカップを使うたびに腹がたって、見るのもイヤになっていたかもしれませんが、 今や、そのカケですら楽しい思い出に変わりました。

さて、イギリスのおばあちゃんからどんなものが送られてくるのかしら? とても楽しみです。

4月5日追記:

先日、イギリスのおばあちゃんから、 送料として支払った3ポンド18ペンス(約630円)が返金されてきました。 添えられたメールによると、いろんなものを詰めた小包を用意したのだけれど、 それを送る送料が、法外な金額になってしまったとのこと。 そこで、こういう方法をとることにしたのだそうです。

うーん、残念!

そのメールの内容を理解したとき、わたしはがっかりしました。 そもそも3ポンドの返金のほうが上位の条件だったのですけれどね、 イギリスから何か送られてくることがすっかり楽しみになっていたものだから、 なんだか楽しい夢だから覚めてしまったような気分になったのです。

送られてくるものは、どんなものだか皆目分からない。 でも、誰かが自分のために何かを選んでくれているところを想像すると楽しくて、 自分がその箱を開けるところを想像すると楽しくて、ドキドキしていました。 それがお金には代えられない楽しみになっていたんですね、きっと。

しかしそれにしても、 そんなに送料がかかってしまうほど、いろんなものを送ってくれようとしたのかしら? 「カードやイラストなど、封筒に入るくらいの軽いものを」と書いたのに、 本当の孫に送る宅急便のように、あれもこれもと入れてくれたのかもしれません。 ――そう考えると嬉しい。 「もう旅行から帰ってきましたか? そろそろ送りましょうか?」 「イースター明けの火曜日に送ります」といったメールが届いていましたから、 包みは準備万端、送るばかりになっていたはずです。 いざ送る段になって、その重さに気づいたのでしょうか。

はてさて、それはどんな包みだったのでしょうね。
一体どんなものが入っていたのかしら?

‥この先ずっと、エッグカップを見るたびに、 それを想像して心がときめくんじゃないかなあ ――そんな気がしています。