2003年6月6日 優しい嘘

ここ数日、またうさぎの"意味を考える病"が始まってしまいました。

とにかく書き続けよう。
意味など分からなくても。
もしかしたら意味などないかもしれなくても。

と書いたのは、一月ほど前のことでしたっけ。

「誰か一人二人でも読んでくれる人がいればいいや」と、 最初は謙虚な気分で始めたこの日記サイト、 数週間前から、すこし欲が出てきて、ウェブリングやリンク集に登録をはじめました。
そのうち「他の人はどんな日記を書いているんだろう??」と興味が出てきて、 ここの2、3日は、あちこちの日記サイトを読みに行ったのです。 ――ところがこれがよくなかったみたい。

すごく面白い!
毎日がドラマみたい!
文章がすごく冴えてる!
毎日イラスト書いて入れてる!
きれいな写真が毎日入ってる!
何年も、一日も休まず書き続けてる!

いままでほとんど「日記サイト」って見たことがなかったのが、 世の中にはすごい日記サイトがたくさんあるんだ、ってことに気付いちゃったのです。
――あーあ。余計なことしなけりゃよかった。

うさぎの日記なんて、バカみたい。
毎日書くことバラバラだし、平凡な日常だし、
これといった特徴があるわけでなし。
わざわざ書いて公開する意味なんて、あるかあ‥?

てな具合にうさぎ、書く意欲をいきなり喪失してしまいました。

意味など分からなくても
意味など分からなくても
意味など分からなくても――!

と、100篇唱えて、初心に返ろうと思いましたが、いまいち効果が見えず。
そんなわけで、今ピンチです(涙)。

で、こんなとき、何が一番効くかというと、それは「人の言葉」です。
ウソでもいい、 「うさぎの日記は面白い。ぜひ書き続けてほしい」と誰かに力強く言ってほしいの。

ところが。 うさぎは不幸にして、嘘つきな家族を持っていません。 力強いウソを聞かせてくれる人がまわりにいないの。
そして、それが分かっているにも係わらず、 その大役をきりんに求めてしまうところが、うさぎの愚かなところ。 今日もそれで玉砕してしまいました。

「ねえ、日記を書き続けて、なんかいいことってあると思う?」
「‥。そんなの分かるわけないよ」ときりん。
「そう言うと思ったわ。‥でも、ウソでいいから言ってくれないかな? 将来きっと、ペンで身を立てられるだろうとか、そんなふうに」
「‥だから言ってるだろ? そんなこと、分かるわけないじゃん!」

ああ、タメイキ‥。
「すいません、あなたに訊いたわたしがバカでした」とここでようやく諦めました。
また今日もきりんからウソを聞きだすことに失敗しちゃったわ。
きりんと出会ってから18年、一体何度、うさぎは同じ失敗を繰り返してきたことでしょう。

「ねえ、わたしのこと、好き?」
「好きだよ」
「愛してる?」
「愛って‥。そんなこと訊かれても」
「ウソでもいいから、愛してる、って言ってくれないかな?」
「うん、分かった。じゃあ、"愛してるよ"」
‥そんな、横向いて言わなくても‥。

「ねえ、今日のわたしって、いいセンいってると思わない?」
「うーん、"いいセン行ってる"って、どういう意味だか分からないな」
「つまり、"きれい"とか、そういう意味よ
「いや、うさぎは"きれい"とか、そういうタイプじゃないな」
「あのね‥。 ウソでもいいから"きれい"って言い続けると、女は本当にきれいになるのよ」
「いや、それより、もしきれいになりたいんだったら、 もっと姿勢を直した方がいいと思うよ」

‥ああ、うさぎって、思えばなんて不幸な半生を送ってきたのかしら。
うさぎが必要としているのは、適切な助言でも正確な真実でもなく、 ただ"優しい嘘"だというのに。なぜだかそれが、きりんには分かってもらえない。
最近は、この「嘘つき」の大役を、子供たちに負わせてみようと試みたりもするのですが、 これもなかなかうまくはいきません。

「ネネ、ママの日記ってどう思う?」
「まあ〜、それなりなんじゃない?」
「面白いと思う?」
「別に〜。だいたい日記ってのは面白い必要ないんじゃないの?」
「でも他所の日記は面白いんだもの。 それでママは今落ち込んでて、ネネに慰めてもらおうかな〜、と」
「ママ、人のこと気にしててどうするの。 人間、大事なのは自分の意志でしょ。 ママだって"意味は考えずに書き続ける"とか前に自分で言ってなかったっけ」
「それはそうだけど。でも人間って一人では生きられなくて、えーと‥」
「もう、つべこべ言ってないで、書きなよ。 自分で決めたことは、ちゃんとやるべし!!」

‥お説、ごもっともでございます。
でも、うさぎが求めているのは、正しい答えじゃなくって‥。
‥いや、それ以上何も言うまい。 ああ、父親似の娘よ、あなたに相談したわたしがバカでした。
いいモン、チャアに慰めてもらうから。 チャアはうさぎに似て性根が優しいから、きっと‥。

「チャア、ママちょっと落ち込んでるの」
「どうしたの? 元気だして! チャアはママのこと、いつも大好きだよ
「‥ありがと。‥ねえチャア、チャアはママの日記ってどう思う?」
「うん、面白いと思うよ
「どこがどんな風に?」
「え?? ええっとそれは‥。うーんと、えーと‥。‥全部!!」

‥どうもありがとう、優しい娘よ。
でも願わくば、もうちょっと具体的な嘘が欲しかった‥。

‥あーあ。 結局のところ、自分の落ち込みは自分でなんとかしなくてはならないのでしょうか。
人生ってツライ‥。

‥‥。
‥でも、‥あれっ??

今これを書いているうちに、なんかこう‥、ちょっと意欲が回復してきたみたい。 情けないなと思いつつ、とりあえず書いてるうちに。 最後は、「だからみなさん"優しい嘘"でうさぎを慰めてください」 っていう言葉で締めくくるしかないと思いつつ、鬱々ダラダラ書いているうちに。

なんだか、これはこれでいいような気がしてきた。 面白くなくても、平凡な内容でも、一貫性がなくても、写真やイラスト入りでなくっても。 だって、少なくとも"正直"じゃない。 こんな情けないことまで正直に書いちゃう日記、そうないかもしれない。 これはこれで貴重かも? これはこれで個性かも〜??

自分の弱さも、愚かしさも、正直に書こう。
本当の自分を見つめるうちに、きっと出口が見えてくるから。

日記を書く意味が、今、ほんのちょっと見えてきたような気がします。