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	きりんは温めた牛乳が飲みたいと言う。
	「下痢に牛乳だなんて――」と言ったが、聞き入れないので作ってやった。さすがにきりんも今日は起きられない。
	ネネたちの頭の中にはもうハイアットのプールしかないようなので、きりんを置いて3人で出掛けた。
	
	ハイアットのプールに着くと、子どもたちは昨日同様、
	監視員のお兄さんに浮輪やらライフベストやらマットやらを借りて遊びはじめた。それを見ていた日本の若い女性が、
	「これ、タダで借りられるんですか?」と聞いた。
	「どうでしょう? ハイアットの備品ではなく、"タモンファンパッケージ"のかもしれないし――」とうさぎが言いよどむと、
	彼女は監視員に聞きにいった。そして手ぶらで帰ってきた。どうやらこれは"タモン"の備品らしい。ヘンなの。
	ビジターのうさぎたちがが大きな顔をしてあれこれ借りているのに、当のハイアット宿泊者が借りられないなんて。
	何だか申し訳ない。
	
今日のプールに関して特筆すべきは、チャアが初めてウォータースライダーを滑れるようになったことだ。 ネネという優秀なコーチのお陰で。
	二本あるスライダーのうち、短い方で、ネネはまず自分が滑ってみせ、次に、
	「こわくない、こわくない」と言い聞かせながら、チャアを抱きかかえて滑った。
	さあ、一度滑れてしまえば、こっちのものだ。
	チャアは、ネネに抱かれて一本滑るごとに徐々に緊張を解き、遂には一人で浮輪をつけて滑れるようになった。
	そして、更に、長い方で滑る勇気まで起こした。これもネネがステップを踏み、チャアの警戒心を巧みに取り除いてやった。
	こういうステップの踏み方が、ネネは実にうまい。
	「何で滑らないの、ちっとも怖くないのに。バカねえ」の一言で済ませてしまううさぎと、なんという差だろう。
	
ウォータースライダーが滑れるようになったチャアは、もう楽しくて楽しくて仕方がない。 ネネと二人で、滑っては登り、滑っては登り、を綿々と繰り返していた。まあ、当然といえば当然である。 普通のスライダーだって楽しいに違いない上に、ここのはとびきり素敵なスライダーなのだから。
	短い方は、ほんの数メートルの長さなのだが、
	ジャングルのような茂みを縫うように配されたプールの途中にひっそりと滑り口があり、
	植え込みの中を通ってそこを滑り降りると、
	これまた目立たないところにある別のプールの中にドボンと落ちるようになっている。
	見落としてしまいそうなその存在自体が、ゲームの裏ワザのようで楽しい。
	それに、プールから這い上がると、道をぐるりと回って橋を渡り、水に入って滑り口まで行く。
	その手続きが、面倒なようでいて、また楽しい。
	長い方は、茂みの中の階段を上ったところから広いプールに下りてくるのだが、スライダーの上には木の枝がせり出し、
	周りには花の咲いていて、木のつるに捕まって「アアア〜〜〜!」と雄たけびを上げるターザンのような気分になれる。
	
こんな素敵なスライダーで「ウォータースライダーデビュー」を果せるなんて、なんとチャアは幸運な子どもなのだろう!