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	子どもたちは海よりプールの方が好きだということは知っていたけれど、
	茂みの隙間からチラっと見える青い海が手招きしている。
	ハイアットのビーチもウェスティンのと同様、こじんまりとして静かだった。
	ここにも"タモンファンパッケージ"の小屋があって、
	水上三輪車やらカヌーやらシュノーケリング用具を並べてお客のために待機している。
	でも人影はまばら。係りのお兄さんが二人いるが、一体これで採算が取れるんだろうか?
	
お兄さんたちは陽気でひとなつこく、親切だった。 うさぎがビデオを向けると、一人は「ボクの名は○○。出身は××で〜」とビデオに向かって自己紹介。 もう一人のお兄さんはビデオを意識してかしないでか、海に向かって朗々と歌を歌っていた。
うさぎたちはまず水上三輪車に挑戦することにした。 大きな車輪型のフロートが3つ着いた巨大な三輪車を、ネネと二人で漕ぐ。 チャアはペダルに足が届かないので、二人用の座席の真ん中に座らせた。 ――けっこう疲れる。必死に漕ぐと、それなりに進むが、何しろ水の上なので、ぷかぷか感がある。 だんだん気分が悪くなってきた。――船酔いだ。ほんの5分で、うさぎは三輪車を降りた。
うさぎがシュノーケリング用具を持ち出すと、お兄さんが、ビニールの小袋に入ったエサをくれた。 シュノーケリングと言っても、ネネとチャアがいるので、水中メガネを手に持って、海の中を歩いていくだけだ。 すこし海の中を歩いたら、水の底に白くて灰色の斑点のあるものが見えた。 あちこちにある。何だろう、石かな? ――そう思ってすくい上げたら、
ぶにょっ。
うわっ?! 予期せぬ感触に、思わず取り落とした。――何なの、今の?!
	どうも砂の底は歩きづらいので、ビーチシューズを借りに戻ることにした。
	戻りながら、〔さっきのブニョブニョは何だったんだろう??〕と考えてみる。
	――もしや、あれがナマコというものではないだろうか。
	ナマコはグアムのビーチには欠かせないと、ガイドブックに書いてあった。
	うさぎはビーチに上がると、早速お兄さんに尋ねた。
	「あの、海の中にいるやわらかい(soft)ものは何?  白くて、黒い斑点があるの、あれがナマコ(namako)なの?」
	「ぐにょぐにょ(slimy) な?  真っ黒で?」とお兄さん。
	「そう、そう。スライミーなの。でも、黒?  白とか灰色っぽいんじゃなくて?」
	「真っ黒。砂を被ってるの」。ああ、それで白っぽく見えたのだ。
	「びっくりして取り落としちゃった」と言うと、
	「でも、あれは刺したりしないよ」とお兄さん。本にも書いてあった。
	姿形はグロテスクだけれど害は何もなく、むしろ砂を浄化してきれいにしてくれるありがたい生き物なんですと。
	
	ビーチシューズを履いて、もう一度、海の中へ。
	こんどはもっと遠くまで歩いていくと、いるいる、ナマコがうじゃうじゃいる。
	水中メガネを水に浸してみると、よく見える。砂がかかっていないところは、確かに真っ黒だ。
	「うわー、気持ちわるーい」とネネ。ナマコを踏まないように、注意して歩いている。
	チャアは既に足が立たないので、うさぎが抱いている。魚を探してみるが、なかなかいない。
	あっ、と思ったら、細くて小さな、真っ青な魚が近くをすすーっとすり抜けていった。
	エサなどやる間もあらばこそだ。後ろから投げつけるようにエサを蒔いてみたが、魚は行ってしまった。
	
ネネの背が立つところまでしか行かれなかったのと、肌に焼けつく日差しが熱いので、ビーチにもどった。 水浸しになったエサを返し、砂だらけになったシューズをバケツに投げ込んだ。 お兄さんたちは小屋で缶入りクッキーを食べていて、うさぎたちにも勧めてくれた。 子供たちは大喜びで遠慮なくせっせと食べた。うららかなタモン湾のひとときであった。