 
	さて、4時半ごろ部屋に戻り、おやつを口に詰め込むと、5時半にきりんとネネが寝てしまった。 6時頃にはチャアも眠ってしまい、うさぎも一眠りしようかな〜と思ったら、 6時45分にピンポーンとチャイムが鳴った。 7時に予約を入れておいたスチームボート(タイすき) のルームサービスだ。
ドアを開けると、タイ人のボーイさんがステンレスのワゴンを前にして立っていた。 ワゴンには、鶏ガラスープをなみなみ入ったグリル鍋や、シーフード等がどっさり載ったお皿などが満載だ。
	テーブルセッティングをしてくれるというので、部屋に彼を招き入れ、リビングの明かりを付けたら、
	ガラスのテーブルの上に生っ白いヤモリが張りついていた!
	思わず「キャーッ!!」と叫んだら、ボーイさんがカタコトの日本語で言った。
	「キケンないよ」。
	
	くらくらとスープが煮えているナベや台所のお皿やフォークなどを、彼はニコニコしながらテーブルに並べた。
	そして、
	「アメリカのおコメだから、日本人、食べられる」と言いながらご飯を取り出した。だがそれは長粒米だった。
	「日本語がお上手ね」と言うと、彼は言った。
	
	「今、日本語、勉強してるね。
	あと、日本人、気をつけることあるね。
	ラグナエリアの外、日本人、買い物高いね。
	ディスカウントしてもらって、トクバイしてね」
	
トクバイ――特売? 得買?! なんかよくわかんないけれど、このトクバイっていうのは気に入った。 要するに〔日本人はふっかけられるから値切って買え〕ってことね。
	異国で、うさぎの国の言葉をこんなに一生懸命話してくれる人がいる――それはとても嬉しかった。
	そして、うさぎもタイ語を使ってみようと思った。
	ラグナエリアの公用語は英語で、英語さえ話せれば意思の伝達にまったく支障はない。
	日本からもってきた「タイ語自遊自在」はこれまでのところしまったままだ。
	だが、英語では伝えられない感情もある。
	特に、決まり文句であればあるほど、その言葉に気持ちがこもっていることを伝えるのは難しい。
	
	タイすきはおいしかった。
	タイでは日本から伝わったこれを「スキヤキ」と呼んでいるらしいが、
	モノは「ナベ」もしくは「しゃぶしゃぶ」である。
	その日本と変わらないあっさりとした味が、酸っぱいトムヤムクンとか、
	激辛ラーメンの洗礼を受けた後ではうれしかった。
	インディカ米はさらっとしているので、ナベに入れるのには向いていた。
	なべから引き上げた具にはタレをつけて食べる。そのタレだけが唯一、タイの香りがした。