2004年11月9日 世界の地図

それは小笠原から始まった

3月ほど前のこと。 みーママさんから船で25時間かけて小笠原の父島へ行った話を伺ったときのカルチャーショックはちょっとしたものでした。

「この狭いはずの日本で、25時間もかからないと行かれない場所があるなんて!」

もしもそれが誰も住んでおらず誰も知らない無人島のような島だったなら、 そこまでびっくりしなかったかもしれません。 だけど小笠原って伊豆と同じで東京都のはずよ? 「父島」という名前も一応聞いたことくらいはある。 なのにどうしてそんなにかかるの? 仮にもこの日本の中で、飛行機が飛んでいない地域があるということにもびっくりしましたが、 それにしても船で25時間かかるとは‥! 一体どこにあるのかしら?

そこで、地図帳を取り出して、場所を確かめることにしました。 ‥ところがねえ、これが分からなかったんだわ。

いえね、地図帳はちゃんと見つかったんです。 それで、日本全図のページも見つかった。 「小笠原諸島」という地名も見つけました。 ――でもねえ、その地図では、知りたいことが分からなかった。 その地図は、全然役に立たなかったんです。

なぜかというと。 小笠原諸島や、沖縄のある南西諸島など本州から遠く離れた諸島部は、本土の地図とは別になっていたからです。 それは「日本全図」のページにありました。 隅に大きく開いた海部分の余白を利用して、「小笠原だけ」の地図を作ってありました。 みーママさんが行かれた「父島」や「母島」の地名もちゃんとありました。 だけど、そういう書き方だと、小笠原が日本のどこにあるのか、本土からどれくらい離れているのか、全然分からない。 経緯線から察するに、だいたいこの辺り‥のような、そうでないような。 知りたいことが分からない。 痒いところに手が届かない。 ‥イライラしました。

それじゃあ世界地図ならどうだ。 何も「世界全図」とはいわない。 中国やら韓国やら台湾やらが一緒に載っている極東付近の地図ならば。 それなら小笠原も一緒に載っているでありましょう。

‥ところが。これもダメでした。 沖縄はあったんですがね、小笠原はありませんでした。 小さな島だから載っていないのか、地図の範囲外なのか。 何にせよ、載っていないんじゃあ話にならない。 とりあえずその地図帳は諦めて、別の地図帳を見ることにしました。

ところがねえ、その地図帳も似たり寄ったりのものでした。 おそらく効率よく紙面を使うためなのでしょう、どの地図帳を見ても、 ページには日本列島がいっぱいに広がり、 小笠原諸島や南西諸島はその「日本全図」からはみ出て別になっているのです。 で、世界地図などもっと広域の地図ならどうかというと、今度はあまりに小さな島ゆえ省略されてしまう。

それでわたしは密かに自分の心に誓ったわけです。 もうこうなったら、みーママさんの小笠原旅行記掲載の際には、 ゼッタイ小笠原諸島と本州との位置関係が分かる地図を描いちゃるぞ、と。

折しもわたしは地図ソフトを手に入れたところでした。 前からずっと欲しかったのを、ついに手にいれたのです。 これさえあれば、基本的に世界中どこの地図でも描けちゃう♪ 早速、私なりの日本地図を描いてみることにしました。 それで出来上がったのが下の地図です。

日本地図

面白いもので、図にすることで初めて気づくことってあるんですね。 日本がどんな国に囲まれているのか、どんな距離で囲まれているのか、 本州と小笠原諸島とグアム・サイパンとの位置関係、本州と沖縄と台湾との位置関係、 本州と対馬と韓国との位置関係など‥今まで曖昧だったイメージがはっきりしました。 逆に言うと、小笠原と本州の位置関係だけでなく、 グアム・サイパンとの位置関係も知りたかったから、こういう地図を描いたのかもしれません。

実はこの地図、ウェブに載せる際にファイルサイズと画面サイズを考えてトリミングしたので、 最初に作ったときはもうすこし広域でした。 フィリピン海の南のほうに「パラオ」、東のほうに「ミクロネシア連邦」がありました。

地図を眺めていると、それだけでいろんなことが分かります。 今住んでいる横浜、今回知った小笠原、「冬ソナ」の舞台である韓国、 自分が行ったことのあるグアム、フィリピン、香港、 そしてこんど行こうと思っているパラオ‥。 点々と散らばったあの地かの地の印象が地図によって互いに結びついていくような感じです。 こんな感じに世界の一部を切り取った地図は初めて見たのでなんだか新鮮で、 今まで見えなかったことが見えてきました。

その一つは、時間的な距離感です。 地図と一口にいっても、縮尺が異なると、それが持っている時間的距離感も違うのですねえ。 たとえば、市街図を見るときわたしは、暗に徒歩もしくは自転車の時間的距離でモノを考えます。 1キロという距離は「自転車で5分、走って10分、歩いて15分」という時間に頭の中で置き換えられるのです。

一方、世界全図を眺めるときには飛行時間でモノを考えるようです。 シンガポールまで7時間、ヨーロッパやアメリカ中部までは12時間、 南米までは乗り換えも含めて24時間くらいかなあ、なんて無意識のうちに考えて距離感をイメージするのです。 おそらく距離よりも時間のほうが身近で、理解しやすいのでしょう。

出来上がった日本の周辺図を眺めたときは、船時間で考えていることに気づきました。 そもそも「船で25時間」の衝撃が元で地図を描いたのだから当然といえば当然ですが、 それによってグアムの遠さが見えてきました。 いままで3時間半で行かれると思っていたグアムは、船で行くことを考えるとなんと遠いことでしょう。 小笠原までで25時間かかるんじゃあ、グアムまでは丸二日じゃ効かない。 パラオは更にその先です。 実際には飛行機で行くんだけれど、なんとなく船で大海原に漕ぎ出でるような気分になりました。 ああ、遠くへ行くんだなあ、って実感しちゃった。

また、この新鮮な地図を見ていたら、世界にはいろんな切り取り方があるんだなあって思いました。 これまで世界地図を見る際、暗に「アジア」「ヨーロッパ」「オセアニア」などと固定的に分けて考えてはいなかったか。 また、日本から行く際の飛行機の路線に捕われてはいなかったか。 グアムとパラオの位置関係はもともとイメージしていましたが、 パラオとフィリピンがこんなに近いと初めて気づきました。 なんと、パラオはグアムよりもむしろフィリピンに近いんです。 更に、インドネシアにも近い。パプアニューギニアにも近い。 そういえばバリへ行ったとき、わたしはグアム経由で行ったのでした。 その飛行機はパラオの上空を飛んでいったに違いありません。

また、パプアニューギニアの向こうにはオーストラリアがあります。 オーストラリアから帰ってくるとき、4000メートル級のニューギニアの峰々が、 雲から顔を出していましたっけ。 こうして、日本に近いところから地図はどんどん広がっていったのです。

ヘンなオーストリア地図

ところでオーストラリアといえば、 4年前そこへ行く際、地理感がどうしてつかめなくて、さんざ勘違いをしでかした経験があります。 「グレートバリアリーフ」と「ゴールドコースト」を混同しなくなるまで、一月くらいかったものです。 だって、なんとなく語感が似ていません? 「グレート(雄大)」と「ゴールド(黄金)」は、どちらも輝かしい感じ。 「リーフ(砂礁)」と「コースト(海岸)」は、どちらも砂浜っぽい感じ。 それでだと思うんだけど、どうしてもこの二つが一緒くたになって、わけがわからなくなっていました。

実際には、「グレートバリアリーフ」というのはオーストラリアの最北端から南回帰線まで2000キロに及ぶ 世界最大の砂礁地帯のことであり、 「ゴールドコースト」というのはそれよりもっと南にある、数十キロ、つまり九十九里浜くらいの海岸のこと。 分かってしまった今にして思えば、もう全然違うのですが、 言葉で「2000キロ」なんていわれてもねえ‥、あまりに非日常的な距離ゆえ、 当時のわたしにはどんな距離だか、イメージできなかったんだと思います。

また「ケアンズ」「ハミルトン島」「グリーン島」「ホワイトヘブンビーチ」の位置関係が分かるまでにも かなりかかりました。 グリーン島はケアンズから船で40分くらい、ハミルトン島はケアンズから飛行機で2時間くらい。 更に憧れの「ホワイトヘブンビーチ」はハミルトン島から船で1時間くらいだそうで、 ハミルトン島の滞在費が高かったものだから、 ホワイトヘブンビーチへも、グリーン島のようにケアンズから直接船で行かれないものかと考えたものです。

実際には、グリーン島はケアンズから約30キロ、ハミルトン島はケアンズから約700キロ、 ホワイトヘブンビーチはハミルトン島から10キロほどなので、 ホワイトヘブンビーチとケアンズ間も、約700キロという点では変わらず、 ケアンズから直接ホワイトヘブンビーチへ船で行こうなんて思ったら、 それこそ東京から小笠原まで行くようなもので、日本からケアンズまでよりもよっぽど時間がかかるのですが、 ハミルトン島やホワイトヘブンビーチはケアンズ周辺の地図の観光地図にも世界地図にも載っていなかったものだから、 どこにあるのかがよく分からず、ケアンズからの距離が実感できなかったのです。

こういう状態でしたから、最初はツアーのパンフレットを見ても何がなにやらさっぱり分かりませんでした。 たとえば、「グレートバリアリーフの旅 ケアンズ&ハミルトン島6日間」というツアーと 「オーストラリア ゴールドコースト&ハミルトン島6日間」と一体どこが違うのかが分からない。 行こうと思ったのは7月だったので、オーストラリアは冬。 寒さが気になりましたが、個々の場所の違いがよく分からないところであれこれ読んでみても、 何が何やらさっぱりわからない。 「地球の歩き方」を買ってそこに載っていた地図ではじめて、なんとなく雰囲気がつかめてきた次第です。

そんな経験があったので、 地図ソフトを手に入れた今、日本近海の次はオーストラリアの地図を描こうと思いました。 それで出来上がったのがこの地図です。

オーストラリアの地図

でもこの地図、ヘンですよねえ。我ながらヘンな地図だと思います。 だってそうでしょ? シドニー、メルボルンなどといった大都市と、小さな行楽島ハミルトン島やエアーズロックが 同じウェイトで描かれているんだもの。 こんな地図はうさぎしか描きません。 逆に言うと、自分で描かなければ、誰も代わりに描いちゃくれません。

オーストラリアは日本の真南。だから、赤道で折り返した日本の位置も入れてみました。 すると、アデレードが横浜とほぼ重なりました。 あら、それじゃもしかしたら緯度経度が同じよしみで姉妹都市になってるかもしれない? と思って調べてみましたら、残念、アデレードの姉妹都市は姫路市なのでした。

ところで、地図にも著作権があることをご存知でしょうか。 著作権法で保護される著作とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」であり、 地図もその範疇なのだそうです*1。 ‥ということは、地形が同じであっても 「思想又は感情」が違えば、100人100様の地図が出来上がるわけですね。 実際、 「オーストラリア 地図」でイメージ検索をかけてみましたら、 いろんなオーストラリアがあってびっくりしました。 みんなそれぞれ自分だけのオーストラリアがあるんですね。

こうした私的な地図でなくとも、世界には様々な地図があります。 たとえば、日本製の世界地図はたいてい日本が真ん中にありますが、 ヨーロッパ製の世界地図はヨーロッパが真ん中に描かれています。 アメリカ製の地図の中には、アメリカ大陸を真ん中にもってきたものだから、 ユーラシア大陸が地図の左右に分かれている地図もあります。 更に、地図には自国の言い分や主張が込められていることもあって、 特定の国や地域がなかったり、紛争地域をちゃっかり自国の領土にしていたり (世界地図コレクション*2参照)。 その国の世界観が地図に現れているのですね。

我が家だけの世界地図

小笠原の地図を描いたあと、我が家には小さな変化がありました。 トイレに世界地図を貼ったのです。

もともと2年ほど前まで、我が家のトイレには世界地図が貼ってありました。 でも長年の使用により、すっかりくたびれてしまったので、 トイレをリフォームした際に捨てたのです。 また新しいのを買えばいいやと思って。

ところがこれを捨てたのは失敗でした。 その後、いくら探しても、気に入った世界地図が見つからなかったからです。 売られている地図はどれも版を押したようにメルカトル図法でした。 でもわたし、メルカトル図法って嫌いなんですよね。 メルカトル図法は極点に近づくほど面積が肥大化する特徴があり、 あのグリーンランドの大きさがどうしても許せない。 だから、子供の学習教材の付録についてきたモルワイデ図法か何かの地図を捨ててしまったあと、 我が家のトイレに世界地図はありませんでした。

でも、小笠原の地図を描いたら、そんなことを言ってる場合じゃないような気がしてきました。 とにかく、メルカトル図法でもなんでも、地図を貼らなくっちゃ!と思い、 ダイソーで買ってきて早速貼りました。 本当は、洋書屋さんに行けば輸入物のメルカトル図法でない地図が手に入ることが そのちょっと前に分かったのですけれどね。 そんなの待っていられない。 105円だし、とりあえず繋ぎってことで‥と自分に言い訳しつつ貼っちゃいました。

ところがそしたらなんと!
この地図には小笠原の島々がちゃんと載っていたのです!
横幅が1メートル近い大きさなので、細かいところもけっこう描いてあるんですよね。 ああ、なんて価値ある105円の使い道だったのかしら!

VIVA! ダイソー!

‥そんなわけで、今の我が家にはトイレに世界地図が貼ってあります。 これまで訪れた国には赤丸をつけてあります。 だから、これは我が家だけの世界地図です。 トイレに入るたび、みんな地図を見ます。 その証拠に、地図を貼ってすぐ、ネネとチャアが聞きにきました。
「ママ、どうしてドイツとイタリアとハワイに丸がついてないの?」って。

‥ハハ、それは単につけ忘れただけだったり〜!

チャアにドイツとイタリアとハワイに丸をつけてもらい、 トイレの地図はこんどこそ本当に我が家の世界地図となりました。

*1 ネットワーク時代の知的所有権入門 第21回 地図を使用したホームページを作る場合の注意点 地図の著作権は誰のもの?参照。
*2 Webイカロスより。

世界の文字
世界の時刻
世界の電気事情(1)(2)
世界のお金
世界の潮汐