多言語

否定呼応

 今日は南米の先生と久々にスペイン語で話しました。スペイン語を話すのは約2ヶ月ぶりです。

 先週久々に喋ったトルコ語が全く会話にならない状態だったので、スペイン語もどうなることやらと思いつつ、何も準備しないでレッスンに臨みましたが、特に大きな問題はなく、楽しく会話できました。

 なぜかオウムの地下鉄テロの話になったのですが、先生が激しく事実を誤認していたので訂正しました。「あれは爆破事件じゃなく、毒ガス攻撃だった」とか「サダムフセインとはなんの関係もなく、宗教団体の仕業だった」とか。スペイン語だとそんなことでも言えちゃうんですねえ。これが放置レベルに達しているということか、と思いました。

 スペイン語は放置レベルに達している。だから突然喋ることになってもなんとかなる。とっさに思い出せない単語もあるけれど、とりあえずスペイン語で頭が回る。一時的に英単語を代用することはあっても、すぐスペイン語に戻ってこられる。先生が言うこともほとんど分かり、2、3箇所聞きなおす程度で済む。

 一方トルコ語はまだ放置レベルに達していないので、分からない!と思った瞬間、耳が閉じてしまい、思考停止。トルコ語で考えるのをやめてしまう。そして一度英語を使ったら最後、そう簡単にはトルコ語に戻ってこられない。

 どちらも放置言語ですが、えらい違い。トルコ語も早くスペイン語のレベルまでもって行きたいです。

ネイティブでも間違える

 スペイン語でもちょっと混乱はありました。”No tengo ninguna idea”(I have no idea)と言ったあとで、「あれ、ningunaをつけたらnoは言わなくていいんだったっけ?」とふと分からなくなった。

 でも先生曰く、それでいいのだそうです。「英語では*I don’t have nothing とは言わないけど、スペイン語は No tengo nada(何も持っていない)と否定を二度言う。英語のこの部分は間違えやすいところで、英語ネイティブがそう言っているのもよく聞く。この間なんかニュースでトランプが We don’t have nothing って言ってて、さすがにアメリカ大統領が間違うなよー、と思ったわ。こっちは生徒の間違いを毎日正しているんだからさー」ですと。

 わかる、わかる。生徒とすれば、アメリカの大統領さえ言い間違えるというのは大変励まされる事実だけれど、教師とすればやりにくいですよね。

 先生がおっしゃるとおり、これはけっこう間違う。分かっててもついやってしまう。英語でつけなくていい否定をつけてしまうこともあれば、ロシア語でつけるべき否定を忘れることもある。つまりどっちにも間違える。

 特に英語は nowhere、nobody、nothing に対応してそれぞれ anywhere、anybody、anything という語があるから紛らわしい。例えば I can do nothing は I cannot do anything とも言えるので、勢い余って I cannot do nothing と言ってしまうことがネイティブでさえあるのでしょう。

否定呼応

 レッスンのあとで調べてみたら、ロシア語の「не ~ ничего」やスペイン語の「no ~ nada」のような言い方を Negative concord(否定呼応)と呼ぶのだそうです。

 一般的な英語には否定呼応がなく、標準ドイツ語にもない。でもいずれの言語においても方言によっては否定呼応が一部残っているそうです。

 一方、ロシア語だけでなく、スラブ系言語は一般に否定呼応があるそうです。

 面白いのはロマンス諸語。元祖ラテン語は否定呼応がないのに、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語にはあり、フランス語に至っては Je ne sais pas のように、特に強調しないときでも二語のセットで否定する。

 トルコ語も否定を強調する副詞 hiç を使っても否定の mi は必ず入れるので、否定呼応があることになるでしょう。

 アラビア語の場合はそもそも nothing にあたる語がなく、I don’t know anything.(私は何も知らない)のような言い方しかできない。インドネシア語も同様。日本語も同様。「何も」を nothing にあたる語と考えれば否定呼応があることになりますが、「何も」ってそもそも単語じゃないし、「全然」とか「全く」も否定に限って使われるわけではないし。

 つまり三つに大別できる気がします。まず nothing、nowhere、nobody などにあたるそれ自体が否定の意味を持つ単語があるかどうかで分ける。あればⅠ、なければⅡ。次に、こうした単語を使った時に改めて否定するかどうかで a と b と分ける。

 するとこうなる。わたしの既習言語を三つに分けてみると、

Ⅰ- a(否定呼応):

  • フランス語: Je ne sais rien.
  • スペイン語: No sé nada.
  • ロシア語: Я ничего не знаю.
  • トルコ語: Hiçbir şey bilmiyorum.

Ⅰ- b:

  • 英語: I know nothing.
  • ドイツ語: Ich weiß nichts.

Ⅱ:

  • 英語: I don’t know anything.
  • アラビア語: لا أعرف أي شيء
  • インドネシア語: Saya tidak tahu apa-apa.
  • 日本語: 私は何も知らない
  • 中国語: 我什么都知道。

 英語だけ二種類あるのがやはり面白いですね。混同するわけだわ。

 わたしがわかるのは今のところこれだけ。他の言語も分かったら面白いでしょうね。(※2022年4月 中国語追加)

 

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