最近「かもめ食堂」の影響で、コーヒーを飲む回数が増えました。フィンランドは一人当たりのコーヒー消費量が世界一だそうです。
フィンランド語で「コーヒー」は
フィンランド語でコーヒーは「kahvi(カハヴィ)」といいます。英語でcoffee、フランス語でcafé、ドイツ語でkaffeeと、いずれもFの音が入るのに対し、フィンランド語では、スウェーデン語からkaffeという言葉が入ってきたとき、Fの音が消え、HとVに変わりました。
実はフィンランド語には本来、Fの音がないのです。Finland語にFがないって、なにか不思議ですね。
西洋アルファベットなので、文字としてはFも存在しますし、最近の外来語は「filmi(映画)」のように、Fの音を残す傾向がありますが、昔は別の音に置き換えて外来語を受け入れていたようです。
音の代用
フィンランド語のみならず、どの言語にも「存在しない音」があります。たとえばフランス語には、Hの音がありません。文字としてはあるけれど、発音しないのです。だからフランスでは「hotel」は「オテル」。フランス語の親戚のイタリア語やスペイン語も同様です。
だからでしょうか、アラブ世界からトルコを経由してコーヒーがイタリアにもたらされたとき、アラビア語の名称「قهوة(qahwa カフワ)」はトルコでは「Kahve」だったのにイタリア語に入ると「caffè(カフェ)」とhwがFの音で代用され、そのまま北へ北へ、さらには全世界へと広まりました。
けれどフィンランド語同様、Fの音を持たない言語では、また少し名前が変わりました。
たとえば日本語。江戸時代にオランダから入ってきたkoffieという名の飲み物は「コーヒー(kōhī)」と、やはりFの代わりにHを補って取り入れられました。
お隣の韓国ではどうでしょうか。韓国語でコーヒーは「커피(keopi)」。韓国語にもFの音がなかったためPで代用したのです。
インドネシア語も、もとはFの音がなく、かつてアラビア語から入ってきた大量の借用語はFがPに置き換えられて定着しました。ヨーロッパ経由で入ってきたコーヒーも「kopi(コピ)」という名で定着しました。もしもコーヒーがヨーロッパを経由せず、直接アラブからインドネシアにもたらされていたとしたら、インドネシアでのコーヒーの呼び名は変わっていたかもしれません。
アラビア語にも、ない音があります。母音のO、E、それにPの音など。その音を書き表す文字や記号も存在しません。英語のTHをひらがなで書き表すのが不可能なのと同様、アラビア語ではPという音を文字で書き表すことができないのです。
ない音の表記は、近似の音で代用することになります。Pの音は、アラビア語ではたいていBに置き換えられ、「papa(パパ)」は「بابا(バーバー)」、有名なヨルダンの「ペトラ」遺跡は定冠詞つきで「البتراء(アル・ビトラー)」と綴られます。
アラビア語の قهوة、
フランス語の café、
フィンランド語の kahvi、
日本語の コーヒー、
韓国語の 커피、
インドネシア語の kopi・・・
言語によって使われる音が違うって、面白いですね。珍しい音がある言語も魅力的ですが、「ない音」があるのも素敵。使われる音の種類が少ない言語は統一がとれていて、字面にしても発音しても、とてもきれいです。なにかが「ある」ことも個性なら、なにかが「ない」こともまた個性なのですね。
フィンランド語はFのみならず、本来BやWやZもありません。使われる音が決まっているので、どこをとっても、フィンランド語らしい字面、フィンランド語らしい響きです。なぜフィンランド語を学ぶのか、自分でもよくわかりませんが、これもフィンランド語の魅力の一つかな、と思います。