ギリシャ語

語学アプリの効用

 日々の外国語学習に、DuolingoやMondlyなど演習形式の語学アプリを取り入れている方は多いと思います。スマホにダウンロードしておけば、いつでもどこでもスキマ時間を活用して学習することができ、価格も安価。いいことずくめです。

 しかし「語学アプリのおかげでこんなに上達した」という具体的な体験談は意外となく、その効果のほどは未知数。「どの程度上達するかは分からないけれど、やってソンはないから、とりあえず補助的にゲーム感覚で使っている」という人が多いのではないでしょうか。

 かくいうわたしもその一人。8年ほど前からDuolingo、Busuu、Memrise、Mondly、uTalkなどを学習に取り入れてきましたが、経験値が増えたり、画面の色が変わったりするのが楽しいから続けているだけで、他の語学教材と比較してどれほど効果的か、深く考えたことはありませんでした。

 でも今回、現代ギリシャ語の学習を通じ、語学アプリの威力を実感したので、今日はそれについて書きます。

語学アプリ使用状況

 まずは使った語学アプリの種類・かけた時間などについて書きます。

使用したアプリ

  • Nemo(無料バージョン)
  • Mondly(有料バージョン)
  • Duolingo(無料バージョン)

使用期間・量

 使用期間は3か月弱です。ギリシャへの航空券を予約してから、旅行に行くまでの間、だいたい毎日使用しました。

 Nemoは毎日2~3分、収録されている101の表現を確認しました。3か月分を合算すると3~4時間くらいになるようです。

 Mondlyは基本コースを一通り終え、日替わりレッスンを1年半分くらいやりました。アプリの記録によれば、3か月間で50数時間学習したようです。ただこの時間数は自分の体感とはだいぶ違い、体感的には1日2時間以上Mondlyをやっていた気がします。

10月19日現在の記録

 Duolingoは、ギリシャ文字コースをコンプリートしたあと、5つあるユニットのうちユニット2の最後までレジェンダリーレベル(青紫)にしました。時間的にどれくらいかかったかは分かりません。Duolingoは難しくて大変だったため、学習のムラが大きく、一日何時間も没頭する日があるかと思うと、その後2週間くらい全くやらなかったりでした。途中でわけがわからなくなったとき、ノートを作って整理したりもしていました。ノート作りはエクセルで表を作ったり印刷したりなんだり無駄に時間がかかりましたが、Duolingoアプリに向き合っていた時間だけで言えば、Mondlyよりは少なかった気がします。

 合計すると、三つのアプリにかけた時間は、ごくごく大雑把ですが、200時間くらいでしょうか。よく分からないけど、とりあえず200時間くらいということにしておきます。

アプリ以外の学習

 アプリ以外にやったことを参考までに記します。

元々知っていたこと

 3つの語学アプリで現代ギリシャ語を始めるまで、現代ギリシア語は全くやったことがありませんでした。古代ギリシャ語は大昔、やろうとしたことがありましたが、あっという間に挫折しました。

 文字くらいは覚えているかと期待しましたが、覚えているのは、アルファとかベータとか、シグマとかオメガとか、数学やコロナウィルスの亜種、ブランド名に使われる文字の名前だけで、ギリシャ語でどう読むのかまではさっぱり・・・。

文字と発音

 文字が読めるようになったのは、Duolingoのギリシャ文字コースのおかげです。ギリシャ文字に関する本も二冊ほど読みましたが、本を読んだことによる成果は極めて限定的であったと思います。本というのは、知識を知るには便利ですが、その知識が身についたかどうか確認する手段がないのが玉にキズ。その点、しつこくテストを繰り返してくれる語学アプリはありがたい。覚えないと正解できないので、嫌でも覚えました。

 ただ、本を読んでよかったのは、発音のポイントが分かったことです。正しい発音は語学アプリで聞くことができますが、音だけ聞いてそれを正確に真似をするのは大人にはなかなか難しい。「この文字はこう発音する」という説明を読んでおいたことで、気をつけるポイントが分かって良かったと思います。

ネイティブのサポート

 オンライン英会話レッスンDMM英会話では、2人のギリシャ語ネイティブのレッスンを合計18回(約7.5時間)受けました。レッスンでは英語で会話することがほとんどでしたが、ギリシャ語に関しても、以下のようなサポートを受けることができました。

  1. 手書き文字の指導
  2. ときどきギリシャ語会話
  3. ギリシャ語に関する疑問の解決

 1の「手書き文字の指導」は、ギリシャでお世話になった宿に感謝を綴った置き手紙をする際、役立ちました。

ネイティブと文字の練習

 2の「ギリシャ語会話」はほんのお試し程度、一度につき数分だったので、これ会話がで上達したということはないと思います。ただ、ネイティブと少しでも話せると、モチベーションは上がる。「もっと話せるようになりたい!」という意欲の維持には役立ったと思います。

 3の「ギリシャ語に関する疑問」というのは、具体的には「 αγαπώ と αγαπάωの違い」「άντρας と άνδραςの違い」といったことがほとんどでした。それぞれ「私は愛する」「男」と、同じ意味なのにDuolingoとMondlyでは綴りが違い、疑問に思ったのです。

 ネイティブに尋ねた結果、これらは意味に違いはなく、単なる表記ゆれだそうです。日本語でも「食べられる」と「食べれる」、「エレベータ」と「エレベーター」、どちらも意味は同じだったりしますね。それと同じことです。

 こうした表記揺れは多かれ少なかれどの言語にもありますが、ギリシャ語の揺れは他の言語と比べて非常に多く、しかもこれは地域差ではなく時代差なのだそうです。つまり、言葉は時代と共に変化してゆくが、古い言い方も容認されているのだそうです。さすがは長い歴史を誇るギリシャですね。

 こうしたことが分かるのがネイティブと話す醍醐味ではありますが、ギリシャ語には表記ゆれが多いということさえ知っていれば、ネイティブの助けが不可欠だったとまでは思いません。

どんなことが言えるようになったか

 3か月弱、語学アプリで現代ギリシャ語を学んだあと、訪れたギリシャで、実際どのくらいギリシャ語が使えたのかは、前回の記事に書きましたので、ご覧ください。

 まあそこそこ喋れたのでは、と思います。3か月間の学習成果としては、まあこんなものかな、と満足しています。

語学アプリで話せるようになったわけ

 わたしが使った三つの語学アプリはいずれも会話練習に特化したアプリではありません。Nemoはただ音を聞くだけですし、Duolingoも、ギリシャ語コースには喋るトレーニングがありませんでした。

 唯一MondlyだけはAIとの会話レッスンがあり、発声しないと基本コースがクリアできなかったので、お手本を真似して喋りました。ただそれは旅行の1か月以上前のことで、基本コースをクリアしてしまってからは全くやりませんでした。

 それにも関わらず、現地で話せたのはなぜでしょうか。

 一つは、直前でなくてもやはり、Mondlyで多少なりとも口に出しておいたのが良かったのではないかということです。2か月も前に会話レッスンに出てきたフレーズが、現地で必要なときにふと口から出てきて驚いたこともありました。

 もう一つは、ただ聞くだけでも話せる場合があるのではないかと思いました。Nemoはただ聞いているだけだったのに、旅行前にはどれもすっかり口から出てくるようになっていましたし、Mondlyで耳から聞いただけのフレーズが、口から自然に出てきたこともありました。全くギリシャ語を口から発したことがなかったら厳しいかもしれませんが、少なくとも「話す練習をしたフレーズしか言えない」わけではないようです。

 一方、耳で聞いたことのないことを話すのは相当ハードルが高いようです。聞き覚えたフレーズをたった一か所変えて言うだけでも、その変えた部分だけ急に言えなくなることを痛感しました。

 語学アプリの良いところは、一文ごとに耳で聞けることです。目で文字を追いながら、時には単語の意味を確認しながら聞くこともできる。これは従来の書籍タイプの教材にはない画期的な特徴だと思います。

 テキストと音教材が別々になっている従来の教材でも一文一文聞くことが不可能なわけではありませんが手間がかかるので、通常はある程度の長さのコンテンツを一気に聞くことになります。でも一度にたくさん聞くと、脳がオーバーフローを起こし、記憶に残りにくい。一文一文、小分けにして聞ける語学アプリは、脳のキャパが限られているわたしのような者にとって、本当にありがたいです。

手っ取り早く成果を得るには

 一口に語学アプリといっても、アプリによってコンテンツ・操作性はまちまちです。どんな語学アプリを使い、どのように活用したら、より効率的でしょうか。現代ギリシャ語で使った3つのアプリの成果の差から考えてみたいと思います。

 現代ギリシャ語学習に使った3つのアプリの中で、今回一番パフォーマンスが良いと感じたのは無料版のNemoです。Nemoは毎日2~3分しかやらなかった割には余すところなく使え、抜群の時間対効果を発揮しました。101という限られた数を毎日繰り返したのが効いたのだと思います。

 次に効果を実感したのはMondly。現地に着くまでは、どの程度身についているのか全くの未知数でしたが、実際に現地で喋ってみたら、覚えているとは思わなかったフレーズまでが意外と身についていて驚きました。

 Mondlyの面白いところは、フレーズによって出題頻度が異なること。易しくて短くてよく使いそうなフレーズは日替わりレッスンに頻繁に現れる反面、長くて難しめのフレーズは頻度が低めです。なので、使えそうなフレーズ・覚えられそうなフレーズから順に覚えていく傾向にあります。

 また、Mondlyには例文検索機能があり、気に入った例文が含まれているレッスンをピンポイントに復習することができます。このレッスンのつまみ食いを思いついたのは旅行直前でしたが、これは明らかに効果的でした。もっと早くに思いついていれば、もっと効果は高かったと思います。

 一方、Duolingoは、フレーズや単語の習得という点では、成果をほとんど感じられませんでした。その理由は、Duolingoはコンテンツが膨大で、新しい単語がドッと出てきて覚えきれないことと、自由度が低く、好きな単元のつまみ食いができないからだと思います。「必要なフレーズだけ手っ取り早く覚えて使ってみたい」というニーズにはどうやらDuolingoは合っていなかったようです。但し、文字が覚えられたのは主にDuolingoのおかげですし、他の点でも縁の下の力持ち効果があったと思います。それについては次項にて後述します。

 以上を踏まえると、短期間に手っ取り早く話せるようになるには、以下の事項が必要なようです。

  • 目で見るより、耳で聞く
  • 使えそうなフレーズに絞る
  • 数少ないフレーズを数多く繰り返す
  • ときどき口で言ってみる

文法をやるべきか

 最後に「ところで、文法はどうしたの?」と疑問に思われる方も多いと思いますので、補足します。

 今回、体系的な文法学習はしませんでした

 でも文法を知らなかったわけではないと思います。体系的には学びませんでしたが、多くの文例に触れたことにより、基礎的な文法は体得していたと思います。文例の差異から学んだのです。

 たとえば、以下のような三つの文を見れば、現代ギリシャ語には少なくとも3つの性があることが推測できます。

  • Αυτό είναι μια γάτα.(これは猫です)
  • Αυτό είναι ένας σκύλος.(これは犬です)
  • Αυτό είναι ένα ποντίκι.(これはネズミです)

 類似の文を他にも大量に見れば、名詞の性は三つだけだと推測できますし、インターネットで検索し、自分の推測が合っていることを確認することもできます。同様にして、現代ギリシャ語には格変化があること、動詞活用があることにも容易に気づき、インターネットでググればポイントを整理することもできます。主語のない文にもちょくちょく出くわし、主語が省略できることも分かってきます。

 中にはちょっと気づきにくい文法もあります。

  • Αγοράζω ένα στυλό.(わたしはペンを買います)
  • Θέλω να αγοράσω ένα στυλό.(わたしはペンを買いたいです)

 「(わたしが)買う」は Αγοράζω のはずなのに、なぜ「買いたい」の場合は αγοράσω になるのか。これも単なる表記揺れか、と最初は思いました。でもいつもそうなのです。「~したい」とか「~しなければならない」がつくと、いつも動詞の形が変わるのです。時には微妙に、時には大胆に。

  • Πληρώνω.(わたしは支払います)
  • Πρέπει να πληρώσω.(わたしは支払う必要がある)
  • Βλέπεις.(あなたは見ます)
  • Εχεις να δεις.(あなたは見なければならない)

 これはきっと何か自分の知らない仕組みがあるのだろうと思い、ウィクショナリーで活用表を見てみました。すると、現代ギリシャ語にもロシア語動詞の完了体・不完了体のような対立があることがわかりました。そして、細かい理屈はわかりませんが、どうやら「~したい」とか「~しなければ」というときは通常とは違った形を使うようだと分かりました。

 このようにして、少しずつ文の作り方が分かりました。まだ気づいていない仕組みはたくさんあるでしょうし、間違った推測もあるかもしれない。でも多少間違えても意味は通じるだろうし、正しい言い方に直してもらえるかもしれない。だからこれでいいと思いました。

 「文法は必要かどうか」という議論はよくありますが、この問いに含まれる「文法」という言葉は、「文法を知っていること」と「体系的な文法学習」の二通りの意味にとれるので、イエス/ノーの一言で答えるのは困難です。

 わたしは、言語を使う上で、文法を知っていることは必要だと思うけれど、体系的な文法学習は必須ではないと思っています。なぜなら、体系的に文法を学ばなくても、文の成り立ちは経験的に身につくからです。

 とはいえ、体系的に文法を学ぶことに否定的なわけでも、嫌いなわけでもないので、今はまだ学んでいないというだけで、今後学ぶ可能性は大いにあります。

 現代ギリシャ語には名詞の性が三つあること、格変化があることなど、基本的な文法的特徴に気づかせてくれたのは、主にDuolingoです。Duolingoに関しては「Duolingoに出てきたこのフレーズが言えた」といった目に見える成果こそ感じられませんでしたが、MondlyやNemoに出てきたフレーズの単語を一部入れ替える際、文法に沿って正しくカスタマイズができたのは、Duolingoを途中まででもやったおかげだと思っています。

サントリーニ島の猫
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