英語の本を読んでいるとき、けっこうよく引っかかってしまうのが、代名詞です。heとかsheとかitとか。その指し示す内容が分からない。「『彼』って誰よ?」、「『それ』ってどれよ?」と思うことがよくあります。
たとえばハイジの英訳に出てきた以下の文章:
Sebastian pulled the boy away, the latter having quickly caught up his tortoise, and when he had got him outside he put something into his hand.
(逐語和訳): セバスチャンは少年をひっぱりだそうとし、後者は素早く彼の亀をひっつかみ、そして彼が彼を外に出したとき、彼は彼の手に何かを押し込んだ。
この長い一文には「彼」と呼ばれうる人物が二人でてきます。クララの家の使用人であるセバスチャンと「少年」です。
そして「後者」が一回、「彼」がなんと5回も出てきます。さて、どれがセバスチャンで、どれが少年でしょうか?
まず「後者」。これはすぐに分かります。セバスチャン→少年の順に出てくるので、「後者」というのは少年のことでしょう。
では「彼の亀」とは誰の亀か? これは、少年が亀を連れてきたことが前の文章に出てくるので、少年の亀でしょう。
その次、「彼が彼を外に出した」というのも、セバスチャンが少年をひっぱりだそうとしていたことから、「セバスチャンが少年を外に出した」と推測。
でもその次、「彼は彼の手に何かを押し込んだ」は?? セバスチャンが自分の手に何かを押し込んだのか? それとも少年が? あるいは、セバスチャンが少年の手に何かを押し込んだのか、少年がセバスチャンの手に押し込んだのか?? それは判断のしようがありません。
ただ「押し込む」という動作自体、手を使った動作なので、主語が誰にせよ、自分の手に何かを押し込んだのなら、手には「もう一方の」とか「左の」などといった修飾語がつきそうな気がする。とすると、ここでは「●●は、××(別人)の手に何かを押し込んだ」と考えていいかもしれない。
でもこの●●は一体誰なのか?
ここで、娘が教えてくれたいいことを思い出しました。「英語の場合、主語は変わらないのがデフォらしい」というのです。それを当てはめてみました。
ここまで「セバスチャン」が主語だったので、ここもセバスチャンが主語だと考えると、「セバスチャンは少年の手に何かを押し込んだ」ことになります。
纏めると、
(逐語訳): セバスチャンは少年をひっぱりだそうとし、後者は素早く彼の亀をひっつかみ、そして彼が彼を外に出したとき、彼は彼の手に何かを押し込んだ。
↓
(意訳): セバスチャンが部屋から引っ張りだそうとすると、少年は素早く自分の亀をひっつかんだ。少年が部屋の外に出ると、セバスチャンは少年の手に何かを押し込んだ。
ということになります。
後続の文によれば、その「何か」というのは、どうやら小銭のようです。そうか、セバスチャンは少年に駄賃を握らせたんですね。ヨシヨシ、うまく当てはまった! メデタシ、メデタシ^^。
でも、この一文を解読するのに約3分。・・・いや、もっとかかったかもしれない^^;。英語って・・・ムズい・・・;;
ちなみにハイジのこの部分は、ドイツ語のほうがはるかに分かりやすいです。主語が一度しか出てこないから。
Sebastian gehorchte bereitwillig, zog den Jungen hinaus, der schnell seine Schildkröte erfasst hatte, drückte ihm draußen etwas in die Hand und sagte: …
(和訳): セバスチャンはすすんで命令に従い、慌てて自分の亀を掴んだ少年を外に引っ張り出し、部屋の外で少年の手に何かを握らせて言った。
・・・英訳すると、一体どうしてあんなんなっちゃうんでしょうねえ??
こういう代名詞の嵐が、英語の小説って、ときどきあるんです。・・・で、どれが誰なんだか、よーーーく考えないと、分からない(涙)。
でも「主語は変わらないのがデフォらしい」というのを知って、これでもだいぶラクになったんです。ほんとにそれまでは、誰が誰やら分からなくて苦労してたんだから!! 結局迷宮入りだったこともありました。
・・・といっても、この法則はうちの娘の経験則かもで、誰かに習ったとかではないかも(本人も覚えていない^^;)なので、どこまで信用していいのかはわかりません。でもわたしのこれまでの経験では、そう思って読むとうまくつながる。
たとえば「クララはおばあさまにハイジを紹介した。彼女は・・・」なんて文があったとすると、この「彼女」っていうのは、おばあさまでもハイジでもなく、クララのことだと思っていい。
少なくともわたしが今まで読んだ中ではそうでした。
日本語ではあまり代名詞を使わないせいか、heとかsheとかhisとかherって、わたしは本当~~に苦手で、以前はウンザリしていたのですが、こんなことにも法則性があるのかも?!と分かってからは、なんだかちょっと楽しくなりました。