英語

ワシントン・スクエア

 約1ヶ月の死闘の末「Washington Square」を読み終えました。6万4000語読むのに、たぶん30時間近くかかったと思う。ものすごく面白かったけれど、ものすごく大変でもありました。

 今まで読んだ英語の本の中で、間違いなく一番難しい本でした。・・・というか、完全に大人向けのペーパーバックを読んだのは、これが初めてかも。1880年に出版されたアメリカの古典です。大人の本初めてで、いきなり古典に挑戦って、無謀~(笑)。

 とはいえ、実は最初はグレーデッドリーダーズの簡約で読んだのです。

  1. マクミラン(Y1.8 8000語)
  2. ペンギン(Y2.8 6800語)
  3. オクスフォード(Y3.8 15510語)

の順に、同じ話を3回読みました。(Y=難易度(数字が小さいほうが平易))

 19世紀英米文学の古典が好きなのですが、長い本、難しい本は苦手なので、英語で読むときはいつも簡単に短く纏められた簡約本を読むのです。簡約ばかり何冊か読み比べることもよくあります。

 でも今回は、簡約によってあまりに印象が違ったので、元は一体どういうことになっているのかが知りたくて、どうしても原書を読んでみたくなったのです。

 物語の筋は単純。容姿も頭脳もパッとしない金持ちの娘キャサリンの前に、とびきりハンサムなモリスという文無しの男が現れ、求婚する。二人は将来を誓い合うが、キャサリンの父親はモリスを嫌い、二人の結婚に反対する、という、まあよくある話です。

 物語の筋自体は同じですが、最初の二冊は、金目当ての男との結婚を、聡明な父親が阻止しようとする物語、最後の一冊は、若い二人の純愛が、冷酷な父親に邪魔される物語、のように感じました。

 要は「結局モリスはキャサリンを愛していたのかどうか」、その一点が知りたくて、原書に手を出しました。ミーハー(笑)。

 原書を読んでみたら、他にもいろいろ腑に落ちなかった登場人物の行動の根拠が、事細かに描かれていて、実に面白かったです。

 簡約本では3冊とも、おとなしくて冴えないキャサリンが、自信に満ち溢れたモリスと父親に振り回されるばかりで、自分自身は何も変わらず、ソンばかりして終わる印象を受けましたが、原作からはキャサリンの成長がはっきり読み取れ、「財産」や「結婚」という視点に囚われずに読むと、凛として潔いキャサリンの豊かな人生が浮かび上がってくる。

 自信満々な男たちが結局、一番欲しいものを得られなかった一方で、唯一キャサリンだけは、結局、誰の言いなりになることもなく、自分の人生を選んだ、とわたしには読めた。だから原作は後味がよかったです。

 簡約はどれも「モリスと父親、どちらが勝つか」という二者対決の構図になっていて、キャサリンの影があまりにも薄い。字数を減らし、平易に書き換えようとすると、いきおい視点を絞って構図を単純化せざるをえないのかもしれません。結果として「視点の押し付け」になっていた。

 今まで、どうして小説っていうのはああも無駄に長いんだ、と思っていたけれど、実は無駄じゃなかったのね。それが分かっただけでも、頑張って原書を読んだ甲斐があったというものです(笑)。

 しかしながら、これだけ面白くても、読み進めるのは本当ーーーーーーに大変でした。ひとたび中断すると、次に再開するのが億劫で億劫でたまらない。ここまで興味を惹かれていてなお、難しいということはこれだけ大きな障害になるんだなあ、と実感しました。

 分かるところは分かるんです。たとえば会話はラク。いまどきの小説に出てくるいわゆる「英語らしい英語」に比べても、古典に出てくる会話は教科書通りで、むしろ分かりやすい。

 状況描写も、最初の章を除いては、それほど難しくなかった。

 でも肝心の心理描写が読めないんです。まず単語が難しくて分からない。it、that、soといった指示詞の指し示す内容が分からない。一文がやたらと長く、結局何が結論なのかがよく分からない。

 一番読みたい部分が読めない。これは本当に悔しくて、この難しさをなんとか乗り越えられないかと思い、いろんな工夫をしました。

 まずは、でなく、ネットの青空文庫で読んだり、kindle版(無料)をダウンロードしたりしました。文字の大きさが変えられるので、だいぶ読みやすくなりました。

 ただ、細かい差もあるようです。たとえばkindle版と青空文庫では、29章の最後が以下のようになっています:

“Dear Catherine,” he said, “don’t believe that I promise you that you shall see me again!”

 これ、「『キャサリン、また逢えると僕が約束しているなんて、思わないでくださいね!』と彼は言った」と読めるじゃないですか。でもモリスのこのセリフは、いくらなんでも冷たすぎる。

 そこで、本も確認してみました:

“Dear Catherine,” he said, “don’t believe that. I promise you that you shall see me again!”

 本では「don’t believe that」のあとにピリオドが入っていて、これだと、「『キャサリン、そんなふうに思わないで。また逢えると約束しますから!』と彼は言った」と読めます。このほうが、しっくりきます。

 あと、音で聴いたら分かるかとも期待して、フリーのオーディオブックもダウンロードしてみました。でも残念ながら、読んで分からないものが、聞いたら分かる、というマジックは起きませんでした。

 でも朗読の女性の声がとてもきれいで優しくて、この声でキャサリンの人物像をイメージするようになりました。

 また、一章読み進めるごとに、翻訳本でフォローしました。

 これは良かった。分からなかった部分や勘違いを修正することができました。全く逆に受け取っていた部分すらあった。

 itやthatを単純に「それ」とか「あれ」という日本語に置き換えるのではなく、具体的にそれらが示す内容が分かるような訳し方をしてくれていたので、細かい部分までしっかり理解できました。さっぱり分からなくて読み飛ばしていた部分に関しても、ちゃんと噛み砕いて説明してくれていました。

 たとえば21章の最後のほうに、

“But you make your brother out a regular Turk.”

というモリスのセリフがあるんですが、この「a regular Turk(普通のトルコ人)」というのが、わたしにはさっぱりイメージできませんでした。

 でも翻訳は、

「しかし、伺っているとお兄さんは、まるで異教徒のように残忍な方に聞こえますねえ」

とありました。

 そうか、この時代のアメリカ人にとって、トルコ人=異教徒だったんだ、とこれで分かった。しかも「残忍」という言葉まで添えて、当時のアメリカ人が異教徒に対し、どのような印象を持っていたかを補足してくれている。

 もう、こういう箇所が次から次へと山ほどあって、ありがたいなあ、と思いました。本当にありがたいと思った。翻訳ってすごいなあと思いました。

 そんなこんなで、曲がりなりにもなんとか一冊、最後まで読み終えることができました。本当に面白かったし、良い経験にもなったけれど、すごーく大変でもありました。この一大事業を終えることができて、ホッとしています^^。

 

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