ロシア語

ロシアとウクライナ

 なんだか毎日どよーんとした気分になっています。何か不安で落ち着かない。

 何がそんなに不安なのかと思ったら、どうもロシアとウクライナの情勢が気になっているようです。気づくとそのことばかり考えている。

 どうしてもそのことが頭に浮かんでしまうので、日々のロシア語レッスンも最近なんとなく億劫。そんな気分を少しでも晴らすべく、今日はちょっと思いつくままにいろいろ書いてみようと思います。

ロシア語ネイティブの帰属意識

 ロシア語ネイティブの先生方と話すとき、ロシアとウクライナ情勢の話題を持ち出すのは、ウクライナの先生と話すときだけです。中央アジアやベラルーシの先生はあまり興味がないだろうし、ロシアの先生には話しずらい。「おたくの国、今度ウクライナに攻め込むんですって?」とはちょっとさすがに言い出せませんものね。うっかりこの話題に触れてしまったらと思うと、ロシアの先生と話すこと自体が億劫だし、レッスンを予約しても、がっちり別の話題を用意してレッスンに備えてしまいます。

 一方、ウクライナの先生とは二人とこの話をしました。心配しているという気持ちだけでも伝えたかった。今のところ特に変わりはないようですが、首都キエフ在住の先生は、知り合いがちらほらキエフから避難しはじめていると言っていました。

 わたしがいつもお世話になっているのはロシア語ネイティブの先生方で、親戚がロシアを含む他の旧ソビエト連邦諸国にいたりするので、ロシアへの感情は比較的温情的かもしれないと思っていたのですが、今回話してみて、個人差はあるものの、ウクライナに愛国心を抱いていることと、ロシアに対して非常に厳しい感情を抱いていることが分かりました。いつも朗らかな先生の顔つきがいつもと全く違ったのがショックでした。

 わたしは、国名と言語名と人種が完全に一致する環境で育ったので、こういうときウクライナのロシア語話者がどのような気持ちになるのか見当もつかないけれど、生まれながらにしてウクライナ国籍を持ち、ウクライナで生まれ育った人たちは、ロシア語を話していても、やっぱりウクライナ人なのかなと思いました。

 ウクライナ東部に住む先生によれば「若い世代はみなヨーロッパに親しみを感じているけれど、ソ連時代を知っている年配の人の中には、またロシアと一緒の国になりたいと願っている人もいる」とのことだったけれど、キエフ在住の先生にそれを話すと「まさか! 年齢に関係なく、みんなロシアからは距離を置きたいと思っている」と一蹴されました。先生の個人差だけでなく、地域差もあるのかもしれません。

 2014年のクリミア問題にしても、「クリミアで死者や負傷者が出たという話は聞かない」と言いつつも、「それは『わたしは知らない』ということであって、本当にそうかどうかは分からない」と言う。その言葉にロシアに対する深い不信感を感じました。

正当性とはなにか

 領土問題って、国民感情に密接なかかわりがあるようです。そこに住む人々が幸せなら、どこの国に属していようがいいじゃない?と簡単には思えないものがある。自分が行ったことのない土地でも、存在すら知らなかったような島でさえ、近隣の国が狙っているとなると、突然ナショナリズムに火がつく。

 9年前にスペイン語のスカイプレッスンを始めた頃、ちょうど日本でも尖閣諸島の問題が持ち上がり、どちらかというとナショナリズムからは遠いわたしが、いつも悲憤慷慨し「中国はひどい。あれは日本古来の領土だ」と口角泡を飛ばす勢いで先生相手にぶちまけていたことを思い出します。

 こっちが激高すれば激高するほど、先生方は腑に落ちないといった表情で、妙に冷静に「どうしてそう思うの?」と返してくる。「だって近年まで中国は尖閣諸島に目もくれなかったのよ? それがそのエリアで石油が発見された途端、領土権を主張し始めたのよ。どう考えたっておかしいでしょ!!」と言うと、「でもだからといって、そこが日本の領土だということにはならないよね?」と言われる。

 誰か一人くらいは分かってくれるんじゃないかと思って、いろいろ調べ、何度も相手を変えて話してみたけれど、結局ダメ。何をどう言っても、尖閣諸島は日本の領土だという主張を先生方に理解してもらうことはできませんでした。日本人にとっての正当な根拠が、外国人からするといかに脆弱で、なんの正当性も感じられないものであるかを知った一幕でした。

 こんなことばかりやっていたから、スペイン語はアッという間に上達しましたが、スペイン語の習得よりも、こうした経験や理解のほうがよっぽど貴重な人生経験であったと、今も思っています。

読もうという意思さえあれば

 今回のウクライナ侵攻に関し、昨日こんな記事がネットに上がっていました。

全ロシア将校協会が「プーチン辞任」を要求…! キエフ制圧でも戦略的敗北は避けられない(北野 幸伯) @gendai_biz
世界の目は現在、ロシアとウクライナに注がれている。10万人規模のロシア軍が、昨年11月からウクライナの東部国境付近にとどまっている。ウクライナの北の隣国ベラルーシでは現在、ロシア軍とベラルーシ軍の合同軍事演習が行われている。南を見ると、黒海にロシア艦隊が展開している。ロシア軍は、ウクライナを北南東、三方から包囲し、侵攻...


 特にわたしの興味を引いたのは、以下の部分です。

さて、日本ではまったく報道されていないが、ロシアで1月31日、驚愕の出来事が起こった。「全ロシア将校協会」のHPに「ウクライナ侵攻をやめること」と「プーチン辞任」を要求する「公開書簡」が掲載されたのだ。

 原文は、以下のページから見ることができる。

 Обращение Общероссийского офицерского собрания к президенту и гражданам Российской Федерации

 この公開書簡は、レオニド・イヴァショフ退役上級大将が書いたものだが、彼は、「個人的見解ではなく、全ロシア将校協会の総意だ」としている。

https://news.yahoo.co.jp/articles/1c2aed745c6a6ff05ac648bd75facca32c8a5577?page=2


 一部にロシア語が書かれているところがもっともらしく、これだけ読むと今にもプーチンが失脚しそうに見えます。

 でも実は、この記事には重要な事実がいくつか欠けています。

  1. レオニド・イヴァショフ退役上級大将は、何年も前からプーチン辞任を要求している
  2. 全ロシア将校協会はイヴァショフ退役上級大将が率いる団体で、非公式な団体である

 つまり、この記事の内容は間違いではないけれど、記事にあるように「驚愕の事実が起こった」とまでは言えないのです。もともとプーチンに批判的な軍の元お偉いさんが今回もまたプーチンを批判しているというだけの話で、今に始まったことではないし、しかも彼がトップを務めるこの「全ロシア将校協会」という団体の規模や影響力も未知数なのですから。

 そういうことが、ロシア語と言わずとも、英語のニュースを読めばわかる。英語のニュースは「ロシアの退役軍人で、こんなことを言っている人もいる」くらいのテンションで書かれています。

 ことほど左様に、情報収集の観点だけから言っても、外国語を学んでいることは決して無駄じゃないと感じます。

 ここで大事なのは、外国語が「読めること」ではなく「読もうとすること」。辞書なしでスラスラ読める実力がなくてもいいのです。ただ「読もう」とする意思さえあればそれで充分。記事を隅から隅まで読む必要はなく、知りたいところだけ拾い読みするので構わないし、今は自動翻訳や辞書など、いくらでも助けてくれるツールがあるからです。

ウクライナのイラスト

 

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