トルコ語

母語の補助輪の外し方

 外国語脳について自分が書いた記事を読み直して、ちょっと違和感を感じています。なんか大げさすぎる感じ。あたかも奇跡か何かみたい。

 たしかに、わたしにとっては奇跡に近いものではありました。最初にアラビア語でこの体験をしたとき、すごくビックリしたし、不思議だったし、魔法みたいだと思いましたもの。でも別にわたしだけが特別ラッキーだったわけではなく、きっと誰もが必ず通る道なのだろうと思っています。

 だって外国語モードにならなければ、ネイティブスピードには普通、ついていけないと思うから。

 外国人の話すスピードについていけて、内容が聞き取れる人は、自覚があるなしにかかわらず、このモードになっているか、もしくは超人的に頭の回転が速いかのどっちかだと思う。世の中、そんな超人がしょっちゅういてたまるか、と思うので、きっとたいてい前者でしょう(笑)。

 留学経験のある人に、いつ頃から現地の言葉が分かるようになったか、よく尋ねるんですが、その答えは見事なまでに一致しています。

 三ヶ月ですって。

 誰もがそう答える。留学して三ヶ月くらい経った頃から、それまでさっぱり聞き取れなかった周囲の人の言っていることが突然分かり始め、言いたいことが言えるようになり始めるのですと。

 だから現地で毎日言葉のシャワーを浴び続けた場合、三ヶ月というのが外国語脳発動の目安かな、と思っています。

 海外で長期間生活する機会に恵まれない場合、期間はもう少し余分にかかる。でも擬似環境を構築しさえすれば、日本にいても決して不可能ではない。外国語脳は遅かれ早かれ、いつか必ず得られると、これまでの経験上、確信しています。

 だっていつも日本語でやってることだもの。日本語を日本語で理解し、日本語で考えながら喋る。ごく当たり前のこと。ただそれを別の言語に置き換えただけ。

 母語の干渉をいちいち受けながら外国語を理解している状態のほうがむしろ不自然。自転車に補助輪をつけて走っているようなもの。補助輪がとれて初めて、自由になれる。

 補助輪の外し方さえ体得すれば、それ以降は自転車でスイスイ、どこまでも走っていかれる。ほんと、外国語モードの自由さは、風をきって二輪車で走行する爽快さととてもよく似ている。

 ああー、はやくこの自由さを、いろんな言語で感じたい!!

 今はトルコ語でこの補助輪をいかにはずすか苦労している最中です。まだ充分に感覚の掴めていない回路をどう呼び起こすか。

 補助輪をはずすにあたっての一番の問題は、タマゴとニワトリのパラドックスです。

 日本語を介していては、ネイティブの話すスピードについていかれない。でも回路発動のカギは、相手の話が聞き取れるかどうかにある。

 発動しないと聞き取れない。でも聞き取れないと発動しない。まさしくタマゴが先か、ニワトリが先か、の世界。

 まぐれでも何でもいいから一度モードが発動しさえすれば、相手の話が聞き取れ、聞き取れるからモードが持続するという好循環が生まれるのだけれど、その最初のきっかけがなかなか掴めない。

 いまは、先日書いたような好条件を揃え、極力ハードルを低くして待つのみ。「あともうちょっとで聞き取れそう」という状態が自分を釣り、無意識のうちに回路を切り替える起爆剤になるんじゃないかと思うんですよね。

 実際、ここ一週間くらいの間にも、ほんの少ーしだけれど、先生のトルコ語が自然に理解できる瞬間が増えてきている気がします。

 あと一つ分かったのは、返答しようと思わないときのほうが、自然に聞き取れるということ。ときどきフッと先生のおっしゃることをラク~な気持ちで聞けるときがあって、そうすると相槌や質問がすごく自然に口から出てくる。

 そういうときの自分はすごく本能的。頭に思い浮かんだことをそのまま口にする。その言葉というのは単語か、せいぜい二語。「Öyle mi?(へえー、そうなんだー)」とか、「Gerçekten?(ほんとに~)」とか、「Ama…neden?(え、どうして?)」とか。たぶんわたしの素の発話力ってまだこの程度なんだろうな(笑)。

 ・・・あ。

 なんかいま突然、分かった気がするぞ。

 そうか、わたしの発話力はまだ単語レベルなんだ~! ちゃんとした文なんて、まだ言えないんだ! だから言おうとしなくていいんだ!!

 ちゃんとした文を言おうと思ったら、日本語の力を借りなくちゃならない。日本語の力を借りたくなかったら、難しいことを言おうとしちゃいけないんだ。日本語の力を借りなくても言える程度のことだけ言ってればいいんだ!

 もしかすると、「もっと喋ろう」とか「会話しよう」と意気込むことすら、やめたほうがいいかもしれない。もっと先生の話を聞くことに専念して、本能的に相槌を打ったり、ふと浮かんだ疑問をぶつけてみよう。

 よし、来週ちょっとやってみます!!

アヤソフィア
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